X線作業主任者の過去問の解説:測定(2021年10月)
ここでは、2021年(令和3年)10月公表の過去問のうち「エックス線の測定に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2021年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2021年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2021年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2021年10月)
問1 放射線の量とその単位に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)吸収線量は、電離放射線の照射により、単位質量の物質に付与されたエネルギーをいい、単位はJ/kgで、その特別な名称としてGyが用いられる。
(2)カーマは、エックス線などの間接電離放射線の照射により、単位質量の物質中に生じた二次荷電粒子の初期運動エネルギーの総和であり、単位はJ/kgで、その特別な名称としてGyが用いられる。
(3)等価線量の単位は吸収線量と同じJ/kgであるが、吸収線量と区別するため、その特別な名称としてSvが用いられる。
(4)実効線量は、放射線防護の観点から定められた量であり、単位はC/kgで、その特別な名称としてSvが用いられる。
(5)eV(電子ボルト)は、放射線のエネルギーの単位として用いられ、1eVは約1.6×10-19Jに相当する。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。実効線量は、放射線防護の観点から定められた量です。単位は、J/kgで、その特別な名称としてSvが用いられます。
問2 被ばく線量測定のための放射線測定器に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)熱ルミネセンス線量計(TLD)は、放射線照射後、素子を加熱することによって発する蛍光の強度から線量を読み取る線量計で、線量を読み取ると素子から情報が消失してしまうので、1回しか線量を読み取ることができない。
(2)電離箱式PD型ポケット線量計は、充電により先端がY字状に開いた石英繊維が、放射線の入射により閉じてくることを利用した線量計である。
(3)半導体式ポケット線量計は、固体内での放射線の電離作用を利用した線量計で、検出器にはPN接合型シリコン半導体が用いられている。
(4)光刺激ルミネセンス(OSL)線量計は、ラジオフォトルミネセンスを利用した線量計で、検出素子にはフッ化カルシウムなどが用いられている。
(5)電荷蓄積式(DIS)線量計は、不揮発性メモリ素子(MOSFETトランジスタ)を電離箱の構成要素の一部とした線量計である。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。線量測定にラジオフォトルミネセンス現象を利用した線量計は、蛍光ガラス線量計(RPLD)です。
また、光刺激ルミネセンス線量計の素子には、炭素添加酸化アルミニウムが用いられます。
問3 放射線検出器とそれに関係の深い事項との組合せとして、正しいものは次のうちどれか。
(1)電離箱 ……………………… ガス増幅
(2)比例計数管 ………………… 窒息現象
(3)GM計数管 ………………… 電子なだれ
(4)シンチレーション検出器 … 緑色レーザー光
(5)フリッケ線量計 …………… グロー曲線
(1)は誤り。電離箱と関係の深い事項に、飽和領域、W値などがあります。また、ガス現象は、比例計数管やGM計数管と関係の深い事項です。
(2)は誤り。比例計数管と関係の深い事項に、気体増幅(ガス増幅)、電子なだれなどがあります。また、窒息現象は、GM計数管と関係の深い事項です。
(3)は正しい。
(4)は誤り。シンチレーション検出器と関係の深い事項に、光電子増倍管、蛍光作用などがあります。また、緑色レーザー光は、光刺激ルミネセンス(OSL)線量計と関係の深い事項です。
(5)は誤り。フリッケ線量計と関係の深い事項に、G値などがあります。また、グロー曲線は、熱ルミネセンス線量計と関係の深い事項です。
問4 放射線防護のための被ばく線量の算定に関する次のAからDの記述について、正しいものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 外部被ばくによる実効線量は、放射線測定器を装着した各部位の1cm線量当量及び70μm線量当量を用いて算定する。
B 皮膚の等価線量は、エックス線については70μm線量当量により算定する。
C 眼の水晶体の等価線量は、エックス線については1mm線量当量により算定する。
D 妊娠中の女性の腹部表面の等価線量は、腹・大腿(たい)部における1cm線量当量により算定する。
(1)A,B,D
(2)A,C
(3)A,C,D
(4)B,C
(5)B,D
B,Dは正しい。
Aは誤り。外部被ばくによる実効線量は、1cm線量当量により算定します。
Cは誤り。「眼の水晶体の等価線量の算定方法」について、法改正がありました。
【改正前】1cm線量当量又は70μm線量当量のうちいずれか適切なものにより算定
【改正後】1cm線量当量、3mm線量当量又は70μm線量当量のいずれか適切なものにより算定
改正日は令和2年4月1日で、施行日は令和3年4月1日です。
またこれに関連する他の内容についても改正されています。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【関連記事】法令改正による眼の被ばく限度の引き下げ等について
問5 男性の放射線業務従事者が、エックス線装置を用い、肩から大腿(たい)部までを覆う防護衣を着用して放射線業務を行った。
労働安全衛生関係法令に基づき、胸部(防護衣の下)、頭・頸(けい)部及び手指の計3箇所に、放射線測定器を装着して、被ばく線量を測定した結果は、次の表のとおりであった。
この業務に従事した間に受けた外部被ばくによる実効線量の算定値に最も近いものは、(1)~(5)のうちどれか。
ただし、防護衣の中は均等被ばくとみなし、外部被ばくによる実効線量(HEE)は、その評価に用いる線量当量についての測定値から次の式により算出するものとする。
HEE=0.08Ha+0.44Hb+0.45Hc+0.03Hm
Ha :頭・頸部における線量当量
Hb :胸・上腕部における線量当量
Hc :腹・大腿部における線量当量
Hm :「頭・頸部」、「胸・上腕部」及び「腹・大腿部」のうち被ばくが最大となる部位における線量当量
(1)0.1mSv
(2)0.2mSv
(3)0.3mSv
(4)0.4mSv
(5)0.5mSv
答え(3)
この問題は、測定結果から「外部被ばくによる実効線量」を算定するものです。
もし全身に均等に被ばくする場合は、基本装着部位(男性は胸部、女性は腹部)に個人被ばく線量計を装着し、そこで測定した1cm線量当量を、外部被ばくによる実効線量とします。
しかし、今回は各部位で測定値が異なる不均等被ばくです。
このような場合の外部被ばくによる実効線量は次の式で算出できます。
HEE=0.08Ha+0.44Hb+0.45Hc+0.03Hm
HEE:外部被ばくによる実効線量
Ha:頭・頸部における1cm線量当量
Hb:胸・上腕部における1cm線量当量
Hc:腹・大腿部における1cm線量当量
Hm:「頭・頸部」「胸・上腕部」「腹・大腿部」のうち外部被ばくによる実効線量が最大となるおそれのある部位における1cm線量当量
臓器・組織ごとに放射線リスクが異なる為、上記の式では、各部位で異なる係数を掛けることになっています。
また、各部位の1cm線量当量は、それぞれの部位に装着した個人被ばく線量計の測定値を用いることが原則ですが、測定されていない場合は、他の部位のうち最大の1cm線量当量を該当部位の1cm線量当量とします。
または、線量不明の部位にもっとも近い部位に装着された線量計による1cm線量当量と同程度であることが明らかな場合には、その近接部位の1cm線量当量を用います。
問題文では「防護衣の中は均等被ばくとみなし」とありますので、胸部と腹・大腿部の測定値は同程度となり、Hcには0.2を用います。
それぞれの値を代入して、外部被ばくによる実効線量を求めます。
HEE=0.08×1.1 + 0.44×0.2 + 0.45×0.2 + 0.03×1.1
=0.299 ≒ 0.3mSv
問6 サーベイメータに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)電離箱式サーベイメータは、エネルギー依存性及び方向依存性が小さいので、散乱線の多い区域の測定に適している。
(2)電離箱式サーベイメータは、一般に、湿度の影響により零点の移動が起こりやすいので、測定に当たり留意する必要がある。
(3)NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータは、感度が良く、自然放射線レベルの低線量率の放射線も検出することができるので、施設周辺の微弱な漏えい線の有無を調べるのに適している。
(4)シンチレーション式サーベイメータは、30keV程度のエネルギーのエックス線の測定に適している。
(5)半導体式サーベイメータは、20keV程度のエネルギーのエックス線の測定には適していない。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。シンチレーション式サーベイメータは、およそ50keV以下のエネルギーのエックス線の測定には不向きです。
問7 GM計数管式サーベイメータによりエックス線を測定し、800cpsの計数率を得た。
GM計数管の分解時間が100μsであるとき、数え落としの値(cps)に最も近いものは次のうちどれか。
(1) 30
(2) 50
(3) 70
(4) 90
(5)100
答え(3)
GM計数管式サーベイメータを用いて測定を行うと、分解時間内に数え落しが起こり、真の計数率(本当の計数率)と異なる値を示します。
真の計数率を求める公式は次の通りです。
M=m/(1-mt)
Mは真の計数率を、mは実測の計数率を、tは分解時間を表します。
それでは、問題文の数値を公式に代入して、計算していきましょう。
分解時間の100μsを、秒に直すと0.0001sです。
M=800[cps]/(1-800[cps]×0.0001[s])≒870[cps]
真の計数率は、約870cpsだとわかりました。
今回求めたいのは、数え落としの値ですので、真の計数率から実測の計数率を引きます。
870[cps]-800[cps]=70[cps]
したがって、数え落としの値に最も近いものは(3)70です。
問8 放射線の測定の用語に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)放射線が気体中で1対のイオン対を作るのに必要な平均エネルギーをW値といい、放射線の種類やエネルギーにあまり依存せず、気体の種類によりほぼ一定の値をとる。
(2)入射放射線によって気体中に作られたイオン対のうち、電子が電界で強く加速され、更に多くのイオン対を発生させることを気体(ガス)増幅という。
(3)GM計数管の特性曲線において、印加電圧の変動が計数率に影響を与えない領域をプラトーといい、プラトー領域の印加電圧では、入射放射線による一次電離量に比例した大きさの出力パルスが得られる。
(4)半導体検出器において、荷電粒子が半導体中で1個の電子・正孔対を作るのに必要なエネルギーをε値といい、シリコン結晶の場合は約3.6eVである。
(5)線量率計の検出感度が、放射線のエネルギーによって異なる性質をエネルギー依存性という。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。GM計数管では、入射放射線によって生じる一次イオン対の量とは無関係に、ほぼ一定の大きさの出力パルスが得られます。
問9 蛍光ガラス線量計に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)測定可能な線量の範囲は、熱ルミネセンス線量計より広く、0.1μSv~100Sv程度である。
(2)放射線により生成された蛍光中心に赤外線を当て、発生する蛍光を測定することにより、線量を読み取る。
(3)発光量を一度読み取った後も蛍光中心は消滅しないので、再度読み取ることができる。
(4)素子は、光学的アニーリングを行うことにより、再度使用することができる。
(5)素子には、フッ化リチウム、硫酸カルシウムなどの蛍光物質が用いられており、湿度の影響を受けやすい。
(1)は誤り。測定可能な線量の範囲は、蛍光ガラス線量計が1μSv~10Sv程度、熱ルミネセンス線量計が0.1μSv~100Sv程度です。よって、熱ルミネセンス線量計の方が広いことがわかります。
(2)は誤り。蛍光ガラス線量計では、放射線照射により生成された蛍光中心に紫外線を当てて、発生するオレンジ色の蛍光の強さから線量を読み取ります。
(3)は正しい。
(4)は誤り。素子は、高温下でアニーリング(約400 ℃で加熱処理)を行うことにより、再度使用することができます。
(5)は誤り。蛍光ガラス線量計の素子には銀活性リン酸塩ガラスが用いられており、温・湿度の影響を受けにくいという特徴があります。
問10 あるエックス線について、サーベイメータの前面に鉄板を置き、半価層を測定したところ3.0mmであった。
このエックス線のおおよそのエネルギーは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、エックス線のエネルギーと鉄の質量減弱係数との関係は下図のとおりとし、loge2=0.69とする。
また、この鉄板の密度は7.8g/cm3とする。
(1) 70keV
(2) 80keV
(3) 90keV
(4)100keV
(5)110keV
答え(4)
この問題は、鉄の質量減弱係数を求めて、グラフからエックス線のエネルギーを読み取るものです。
問題文では「半価層を測定したところ3.0mm」とありますが、後で計算に使う「鉄板の密度は7.8g/cm3」の単位と合わせるため、cm単位に直します。
3.0[mm]÷10[mm/cm]=0.3[cm]
続いて、半価層の関係式「減弱係数μ×半価層h=loge2」を用いて鉄板の減弱係数を計算します。
また問題文には「loge2=0.69」とありますので、μ=0.69/hとして計算します。
μ[cm-1]=0.69/0.3[cm]
μ[cm-1]=2.3[cm-1]
続いて、質量減弱係数の関係式「質量減弱係数μm=減弱係数/密度」を用いて鉄の質量減弱係数を計算します。
先ほど求めた鉄板の減弱係数2.3cm-1と、問題文で与えられている「鉄板の密度7.8g/cm3」を代入します。
μm[cm2/g]=2.3[cm-1]/7.8[g/cm3]
μm[cm2/g]≒0.29[cm2/g]
これで鉄の質量減弱係数は、およそ0.29cm2/gだとわかりました。
これをグラフに当てはめると、このエックス線のおよその実効エネルギーは(4)100keVだと読み取れます。
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