X線作業主任者の過去問の解説:生体(2019年4月) | エックス線作業主任者 講習会・通信講座

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X線作業主任者の過去問の解説:生体(2019年4月)

ここでは、2019年(平成31年)4月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。

それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。

X線作業主任者の過去問の解説:管理(2019年4月)
X線作業主任者の過去問の解説:法令(2019年4月)
X線作業主任者の過去問の解説:測定(2019年4月)
X線作業主任者の過去問の解説:生体(2019年4月)



問11 放射線感受性に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)細胞分裂の周期のS期(DNA合成期)後期の細胞は、M期(分裂期)の細胞より放射線感受性が低い。
(2)細胞分裂の周期のG1期(DNA合成準備期)後期の細胞は、G2期(分裂準備期)初期の細胞より放射線感受性が低い。
(3)細胞に放射線を照射したときの線量を横軸に、細胞の生存率を縦軸にとってグラフにすると、ほとんどの哺乳動物細胞では指数関数型となる。
(4)小腸の絨(じゅう)毛先端部の細胞は、腺窩(か)細胞(クリプト細胞)より放射線感受性が高い。
(5)平均致死線量は、細胞の生存率曲線において、その細胞集団のうち半数の細胞を死滅させる線量で、細胞の放射線感受性の指標とされる。


答え(1)
(1)は正しい。M期の細胞は、もっとも放射線感受性が高いことで知られています。
(2)は誤り。細胞分裂の周期のG1期後期の細胞は、G2期初期の細胞より放射線感受性が「高い」ことで知られています。
(3)は誤り。哺乳動物細胞における線量-生存率のグラフは、「シグモイド型」となります。
(4)は誤り。絨毛先端部の細胞は、腺窩細胞より放射線感受性が「低い」ことで知られています。
(5)は誤り。平均致死線量は、細胞内の全ての標的に平均して1個ずつの放射線のヒットを生じる線量のことで、細胞の放射線感受性の指標として用いられます。



問12 放射線被ばくによる白内障に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)放射線により眼の角膜上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生する。
(2)白内障発生のしきい線量は、急性被ばくでも慢性被ばくでも変わらない。
(3)白内障は、早期影響に分類される。
(4)白内障の重篤度は、被ばく線量には依存しない。
(5)白内障の潜伏期間は、被ばく線量が多いほど短い傾向がある。


答え(5)
(1)は誤り。白内障では、眼の水晶体が白く混濁します。よって、眼の「水晶体」上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生します。
(2)は誤り。慢性被ばくとは、長期にわたって比較的低い線量を被ばくすることです。反対に、急性被ばくとは、短期間に比較的大きな線量を被ばくすることです。慢性被ばくよりも急性被ばくの方が、白内障発生のしきい線量は小さくなります。
(3)は誤り。白内障は、被ばくしてから少なくとも6か月程度経ってから発症するので、「晩発」影響に分類されます。
(4)は誤り。白内障は、確定的影響に分類されますので、その重篤度(症状の程度)が被ばく線量に依存します。
(5)は正しい。白内障の潜伏期間は、半年から30年(平均2~3年)と幅が広く、被ばく線量が多いほど短くなります。



問13 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)末梢(しょう)血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低い。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)ヒトの末梢血液中の血球数の変化は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢血液中の血球のうち、被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。


答え(1)
(1)は正しい。その通りです。なお、リンパ球は、末梢血液中においても放射線感受性が高いことで知られています。
(2)は誤り。脊椎とは背骨のことで、脊髄は背骨の中を通る神経のことです。造血器官ではありません。
(3)は誤り。血球数の変化は、0.25Gy程度から認められます。
(4)は誤り。減少する早さは、各血球の寿命に関係しています。減少が現れるのが最も遅いものは、赤血球です。
(5)は誤り。赤血球の減少は貧血を招きます。血小板の減少で出血傾向(正常に止血されない状態)が現れます。



問14 次のAからDの放射線による身体的影響について、その発症にしきい線量が存在するものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A 白血病
B 永久不妊
C 皮膚炎
D 脱毛

(1)A,B,D
(2)A,C
(3)A,D
(4)B,C
(5)B,C,D


答え(5)
身体的影響とは、被ばくした本人に出る影響のことです。
また、しきい線量とは、その症状が出始めるときの最小線量のことです。
1回被ばくにおけるしきい線量として、永久不妊(精巣)は6.0Gy、皮膚炎(紅斑)は3~6Gy、脱毛(一時的なもの)は4Gyとされています。



問15 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)確率的影響では、被ばくした集団中の影響の発生確率は、被ばく線量の増加とともに増加する。
(2)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示される。
(3)遺伝的影響は、確率的影響に分類される。
(4)確定的影響の発生確率は、実効線量により評価される。
(5)確定的影響では、被ばく線量が増加すると、障害の重篤度が大きくなる。


答え(4)
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。確定的影響の発生確率は、「等価線量」により評価されます。
また、確率的影響の発生確率は、実効線量により評価されます。



問16 ヒトが一時に全身にエックス線被ばくを受けた場合の早期影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)2Gy以下の被ばくでは、放射線宿酔の症状が現れることはない。
(2)3~4Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(3)被ばくした全員が、60日以内に死亡する線量の最小値は、約4Gyである。
(4)半致死線量(LD50/60)に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものである。
(5)10~15Gy程度の被ばくによる死亡は、主に中枢神経系の障害によるものである。


答え(2)
(1)は誤り。放射線宿酔の症状は、1Gy程度の被ばくで現れます。
(2)は正しい。
(3)は誤り。4Gyは半致死線量(LD50/60)であり、被ばくした「半数」が、60日以内に死亡する線量です。
(4)は誤り。半致死線量(=4Gy)の被ばくによる死亡は、主に「造血器官」の障害によるものです。
(5)は誤り。10~15Gy程度の被ばくによる死亡は、主に「消化器官」の障害によるものです。



問17 胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)着床前期に被ばくして生き残った胎児には、発育不全がみられる。
(2)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる発育不全は、確率的影響に分類される。
(3)胎内被ばくのうち、奇形の発生するおそれが最も大きいのは、胎児期の被ばくである。
(4)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(5)胎内被ばくによる奇形の発生のしきい線量は、ヒトでは5Gy程度である。


答え(4)
(1)は誤り。着床前期に被ばくして生き残った胎児には、「被ばくによる影響はみられません」。
(2)は誤り。発育不全は、「確定的影響」に分類されます。
(3)は誤り。奇形の発生するおそれが最も大きいのは、「器官形成期」の被ばくです。
(4)は正しい。
(5)は誤り。奇形の発生のしきい線量は、ヒトでは「0.1Gy」程度と推定されています。



問18 放射線によるDNAの損傷と修復に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)放射線によるDNA損傷には、塩基損傷とDNA鎖切断があるが、エックス線のような間接電離放射線では、塩基損傷は生じない。
(2)DNA鎖切断のうち、二重らせんの片方だけが切れる1本鎖切断の発生頻度は、両方が切れる2本鎖切断の発生頻度より高い。
(3)細胞には、DNA鎖切断を修復する機能があり、修復が誤りなく行われれば、細胞は回復し、正常に増殖を続けるが、塩基損傷を修復する機能はない。
(4)DNA鎖切断のうち、2本鎖切断はDNA鎖の組換え現象が利用されるため、1本鎖切断に比べて容易に修復される。
(5)DNA鎖切断の修復方式のうち、非相同末端結合は、DNA切断端同士を直接再結合する修復であるため、誤りなく行われる。


答え(2)
(1)は誤り。エックス線でも、塩基損傷とDNA鎖切断の双方が生じます。
(2)は正しい。1本鎖切断の発生頻度が1,000としたら、2本鎖切断の発生頻度は30程度と考えられます。
(3)は誤り。塩基損傷を修復する機能も備わっています(除去修復)。
(4)は誤り。DNA鎖切断のうち、1本鎖切断は2本鎖切断に比べて容易に修復されます。
(5)は誤り。非相同末端結合修復は、誤りが多い修復方式です。



問19 放射線による遺伝的影響などに関する次のAからDの記述について、正しいものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A 生殖細胞の突然変異には、遺伝子突然変異と染色体異常がある。
B 遺伝子の染色体異常は、正常な染色体の配列の一部が逆になることなどにより生じる。
C 小児が被ばくした場合でも、その子孫に遺伝的影響が生じるおそれがある。
D 放射線照射により、突然変異率を自然における値の2倍にする線量を倍加線量といい、ヒトでは約0.05Gyである。

(1)A,B
(2)A,C
(3)A,D
(4)B,C
(5)A,B,C


答え(5)
A,B,Cは正しい。
Dは誤り。ヒトの倍加線量は、「1Gy」とされています。



問20 放射線による生物学的効果に関する次の現象のうち、放射線の間接作用によって説明することができないものはどれか。

(1)生体中に存在する酸素の分圧が高くなると、放射線の生物学的効果は増大する。
(2)温度が低下すると、放射線の生物学的効果は減少する。
(3)生体中にシステイン、システアミンなどのSH基をもつ化合物が存在すると、放射線の生物学的効果を軽減させる。
(4)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、不活性化される酵素の分子数は、酵素の濃度が高くなると増加する。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子数のうち、不活性化される分子の占める割合は増大する。


答え(4)
(1)は酸素効果と言い、間接作用だけでなく直接作用でも説明することができます。
(2)は温度効果と言い、間接作用によって説明することができます。
(3)は防護効果と言い、間接作用によって説明することができます。
(4)は間接作用によって説明することができません。直接作用によって説明することができます。
(5)は間接作用によって説明することができます。

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