X線作業主任者の過去問の解説:生体(2018年4月)
ここでは、2018年(平成30年)4月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2018年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2018年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2018年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2018年4月)
問11 放射線感受性に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)細胞分裂の周期のS期(DNA合成期)初期の細胞は、S期後期の細胞より放射線感受性が高い。
(2)細胞分裂の周期のG1期(DNA合成準備期)後期の細胞は、G2期(分裂準備期)初期の細胞より放射線感受性が低い。
(3)皮膚の基底細胞層は、角質層より放射線感受性が高い。
(4)小腸の絨(じゅう)毛先端部の細胞は、腺窩(か)細胞(クリプト細胞)より放射線感受性が低い。
(5)神経組織の放射線感受性は成人では低いが、胎児では高い。
(2)は誤り。G1期後期の細胞は、G2期初期の細胞より放射線感受性が『高い』です。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
問12 放射線感受性に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。
「成人の人体の組織・器官のうちの一部について、放射線に対する感受性の高いものから低いものへと順に並べると、[ A ]、[ B ]、[ C ]となる。」
(1)A:甲状腺 B:神経組織 C:肺
(2)A:神経組織 B:肺 C:筋肉
(3)A:骨髄 B:肺 C:筋肉
(4)A:筋肉 B:甲状腺 C:汗腺
(5)A:甲状腺 B:骨髄 C:神経組織
骨髄などの造血器官は、感受性が極めて高いことで知られています。
一方、筋肉や神経組織(脳など)は、成体ではほとんど細胞分裂が行われず、感受性が低いことで知られています。
問13 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)末梢血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低い。
(2)造血器官である骨髄(ずい)のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)人の末梢血液中の血球数の変化は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢血液中の血球のうち、被ばく後、減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。脊椎は背骨のことです。背骨の中を通る脊髄は神経組織でできていますので、造血機能はありません。
(3)は誤り。末梢血液中の血球数の変化は、0.25Gy程度から見られます。
(4)は誤り。被ばく後、減少が現れるのが最も遅い血球は、赤血球です。
(5)は誤り。赤血球は酸素を運ぶ役割を持つので、その減少は貧血を招きます。血小板は止血作用として働きますので、その減少で出血傾向(血が出やすく、止まりにくい傾向)が見られます。
問14 ヒトが一時に全身にエックス線被ばくを受けた場合の急性影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)1~2Gy程度の被ばくでは、放射線宿酔の症状が現れることはない。
(2)被ばくした全員が、60日以内に死亡する線量の最小値は、約4Gyである。
(3)3~5Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(4)LD50/60に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものである。
(5)被ばくから死亡までの期間は、一般に、造血器官の障害による場合の方が、消化器官の障害による場合より短い。
(1)は誤り。放射線宿酔の症状である全身の倦怠感、下痢や吐き気は、1Gy程度の被ばくで現れます。
(2)は誤り。被ばくした『半数』の人が、60日以内に死亡する線量は、約4Gyと推定されています。
(3)は正しい。
(4)は誤り。半致死線量(LD50/60)に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものです。
(5)は誤り。造血器官の障害で死亡する線量は3~5Gyですが、それよりも被ばく線量が大きくなると、主に消化器官の障害で死亡します。被ばく線量が大きい方が、被ばくから死亡するまでの期間が短くなります。
問15 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)確率的影響では、被ばく線量が増加すると影響の発生確率も増加する。
(2)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示される。
(3)遺伝的影響は、確率的影響に分類される。
(4)確定的影響の発生確率は、実効線量により評価される。
(5)しきい線量は、確定的影響には存在するが、確率的影響には存在しない。
(4)は誤り。確定的影響の発生確率は、『等価線量』により評価されます。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問16 放射線の生体に対する作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線によって水分子がフリーラジカルになり、これが生体高分子を破壊し、細胞に障害を与えることを直接作用という。
(2)エックス線などの間接電離放射線により発生した二次電子が生体高分子を電離又は励起し、細胞に障害を与えることを間接作用という。
(3)生体中にシステインなどのSH基を有する化合物が存在すると放射線効果が軽減されることは、直接作用により説明される。
(4)生体中に存在する酸素の分圧が高くなると放射線効果が増大することは、間接作用では説明できない。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて同一線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子数のうち不活性化されたものの占める割合が増大することは、間接作用により説明される。
(1)は誤り。エックス線によって生じた2次電子が、生体高分子の電離又は励起を行い、生体高分子に損傷を与える作用が直接作用です。
(2)は誤り。エックス線と生体内の水分子を構成する原子との相互作用の結果生成されたラジカルが、生体高分子に損傷を与える作用が間接作用です。
(3)は誤り。SH化合物は、ラジカルと結合して放射線効果を軽減してくれるので、間接作用により説明されることです。これは防護効果と呼ばれます。
(4)は誤り。酸素の分圧が高くなると放射線効果が増大することは、直接作用、間接作用の両方で説明できます。これは酸素効果と呼ばれます。
(5)は正しい。酵素の濃度が減少すると、不活性化の割合が増大することは、間接作用により説明されます。
問17 胎内被ばくに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)着床前期の被ばくでは胚(はい)の死亡が起こることがあるが、被ばくしても生き残り、発育を続けて出生した子供には、被ばくによる影響はみられない。
(2)器官形成期の被ばくでは、奇形が生じることがある。
(3)胎児期の被ばくでは、出生後、精神発達遅滞がみられることがある。
(4)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(5)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる精神発達遅滞は、確率的影響に分類される。
(5)は誤り。胎内被ばくによる奇形や精神発達遅滞などの障害は、その発症にしきい線量が存在し、確定的影響に分類されます。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問18 放射線によるDNAの損傷と修復に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)DNA損傷には、塩基損傷とDNA鎖切断があるが、エックス線のような間接電離放射線では、塩基損傷は生じない。
(2)DNA鎖切断のうち、二重らせんの両方が切れる2本鎖切断の発生頻度は、片方だけが切れる1本鎖切断の発生頻度より高い。
(3)細胞には、DNA鎖切断を修復する機能があり、修復が誤りなく行われれば細胞は回復し、正常に増殖を続けるが、塩基損傷を修復する機能はない。
(4)DNA2本鎖切断の修復方式のうち、非相同末端結合修復は、DNA切断端どうしを直接結合する方式であるため、誤りなく行われる。
(5)DNA鎖切断のうち、1本鎖切断は2本鎖切断に比べて修復されやすい。
(1)は誤り。エックス線でも、塩基損傷とDNA鎖切断の双方が生じます。
(2)は誤り。2本鎖切断の発生頻度の方が、1本鎖切断の発生頻度より『低い』です。
(3)は誤り。塩基損傷を修復する機能も備わっています(除去修復)。
(4)は誤り。非相同末端結合修復は、誤りが多い修復方式です。
(5)は正しい。
問19 放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)生殖腺が被ばくしたときに生じるおそれのある障害には、子孫への遺伝的影響のほか、被ばく者本人の身体的影響に分類されるものもある。
(2)生殖細胞に突然変異が生じても、子孫に遺伝的影響が生じるとは限らない。
(3)胎内被ばくを受け、出生した子供にみられる発育遅滞は、遺伝的影響である。
(4)小児が被ばくした場合にも、子孫に遺伝的影響が生じるおそれがある。
(5)遺伝的影響は、次世代だけでなく、それ以後の世代に現れる可能性もある。
(3)は誤り。胎児は1人の個体であるため、胎内被ばくによる発育遅滞は、身体的影響(被ばく者本人への影響)です。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
問20 生物学的効果比(RBE)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)RBEは、次の式で定義される。
RBE=ある生物学的効果を引き起こすのに必要な基準放射線の吸収線量/同一の効果を引き起こすのに必要な対象放射線の吸収線量
(2)RBEを求めるときの基準放射線には、60Coのベータ線を用いる。
(3)エックス線は、そのエネルギーの高低にかかわらず、RBEが1より小さい。
(4)RBEの値は、同じ線質の放射線であれば、着目する生物学的効果、線量率などの条件が異なっても変わらない。
(5)RBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)に依存しており、どのような生物学的効果であっても、1MeV/μm付近のLET値をもつ放射線のRBEの値が最大である。
(1)は正しい。RBEは、式の通り吸収線量の比で表されます。
(2)は誤り。RBEを求めるときの基準放射線には、エックス線やガンマ線が用いられます。なお、60Coは、ガンマ線などを出す放射性同位体で、校正用の線源にも用いられます。
(3)は誤り。エックス線のエネルギーによっては、RBEが1より大きくなることも、小さくなることもあります。
(4)は誤り。RBEの値は、同じ線質の放射線でも、照射条件などにより変わります。
(5)は誤り。RBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)に依存していますが、100keV/μm付近のLET値をもつ放射線のRBEの値が最大になります。
-
同カテゴリーの最新記事
- 2022/05/10:X線作業主任者の過去問の解説:生体(2022年4月)
- 2021/11/10:X線作業主任者の過去問の解説:生体(2021年10月)
- 2021/05/10:X線作業主任者の過去問の解説:生体(2021年4月)
- 2020/10/20:X線作業主任者の過去問の解説:生体(2020年10月)
- 2020/05/10:X線作業主任者の過去問の解説:生体(2020年4月)