X線作業主任者の過去問の解説:生体(2015年10月)
ここでは、2015年(平成27年)10月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。
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問11 放射線感受性に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)細胞分裂の周期の中で、S期(DNA合成期)初期は、S期後期より放射線感受性が高い。
(2)細胞分裂の周期の中で、S期(DNA合成期)後期は、M期(分裂期)より放射線感受性が高い。
(3)細胞分裂の周期の中で、G1期(DNA合成準備期)後期は、G2期(分裂準備期)初期より放射線感受性が低い。
(4)細胞に放射線を照射したときの線量を横軸に、細胞の生存率を縦軸にとってグラフにすると、ほとんどの哺乳動物細胞では指数関数型となる。
(5)平均致死線量は、細胞の生存率曲線において、その細胞集団のうち半数の細胞を死滅させる線量で、細胞の放射線感受性の指標とされる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。S期(DNA合成期)後期は、M期(分裂期)より放射線感受性が低くなっています。
(3)は誤り。G1期(DNA合成準備期)後期は、G2期(分裂準備期)初期より放射線感受性が高くなっています。
(4)は誤り。この場合、ほとんどの哺乳動物細胞ではシグモイド型となります。
(5)は誤り。平均致死線量は、細胞の放射線感受性の指標とされますが、半数の細胞を死滅させる線量ではありません。
問12 エックス線の直接作用と間接作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線光子と生体内の水分子を構成する原子との相互作用の結果生成されたラジカルが、直接、生体高分子に損傷を与える作用が直接作用である。
(2)エックス線光子によって生じた二次電子が、生体高分子の電離又は励起を行い、生体高分子に損傷を与える作用が間接作用である。
(3)エックス線のような低LET放射線が生体に与える影響は、間接作用によるものより直接作用によるものの方が大きい。
(4)生体中にシステイン、システアミンなどのSH基を有する化合物が存在すると放射線効果が軽減されることは、主に直接作用により説明される。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量のエックス線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って酵素の全分子のうち不活性化される分子の占める割合が増加することは、間接作用により説明される。
(1)は誤り。直接作用とは、エックス線の光子エネルギーと生体高分子との相互作用によって飛び出した二次電子が、生体高分子を構成する原子と、相互作用することにより、生体高分子を破壊して細胞に障害を与える作用のことです。
(2)は誤り。間接作用とは、エックス線が生体内に存在する水分子と相互作用した結果、水分子が電離又は励起して、ラジカルとなり、これが生体高分子を破壊し、細胞に損傷を与える作用をいいます。
(3)は誤り。エックス線のような低LET放射線では、直接作用より間接作用の方が生体に与える影響に大きく関与しています。
(4)は誤り。これは防護効果といわれ、SH基を有する化合物がラジカルと結合して起こるため、間接作用により説明されます。
(5)は正しい。
問13 放射線感受性に関する次の記述のうち、ベルゴ二ー・トリボンドーの法則に従っていないものはどれか。
(1)リンパ球は、骨髄中だけでなく、末梢血液中においても感受性が高い。
(2)皮膚の基底細胞層は、角質層より感受性が高い。
(3)小腸の腺窩細胞(クリプト細胞)は、絨毛先端部の細胞より感受性が高い。
(4)骨組織は、一般に放射線感受性が低いが、小児では比較的高い。
(5)神経組織からなる脳の放射線感受性は、成人では低いが、胎児では高い時期がある。
(1)は法則に従っていない。ベルゴ二ー・トリボンドーの法則によると、形態及び機能において未分化のものほど感受性が高いはずです。
骨髄中におけるリンパ球は未分化なので、感受性が高いのですが、リンパ球だけは例外です。
リンパ球は、抹消血液中でも感受性が高いことで知られています。
(2)(3)(4)(5)は法則に従っている。
問14 人体の組織・器官を放射線感受性の高い方から順に並べたものは次のうちどれか。
(1)生殖腺、甲状腺、骨髄
(2)甲状腺、生殖腺、骨髄
(3)骨髄、神経組織、甲状腺
(4)甲状腺、骨髄、神経組織
(5)骨髄、甲状腺、神経組織
(1)(2)は誤り。正しくは、骨髄、生殖腺、甲状腺。
(3)(4)は誤り。正しくは、骨髄、甲状腺、神経組織。
(5)は正しい。
問15 放射線が生体に与える影響と被ばく線量との関係に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生率との関係が比例関係にある。
(2)確率的影響では、被ばく線量と影響の発生率との関係がシグモイド曲線で示される。
(3)確定的影響では、障害の重篤度は被ばく線量に依存する。
(4)しきい線量は、確率的影響には存在するが、確定的影響には存在しない。
(5)確定的影響の程度は、実効線量により評価される。
(1)は誤り。比例関係ではなく、シグモイド曲線で示されます。
(2)は誤り。シグモイド曲線でなく、比例関係で示されます。
(3)は正しい。
(4)は誤り。しきい線量は、確定的影響に存在します。確率的影響には存在しません。
(5)は誤り。確定的影響の程度は、等価線量により評価されます。実効線量ではありません。
問16 放射線による遺伝的影響に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 遺伝的影響の原因となる生殖細胞の突然変異には、遺伝子突然変異と染色体異常がある。
B 小児が被ばくした場合にも、遺伝的影響が生じる可能性がある。
C 遺伝的影響は、確定的影響に分類される。
D 放射線照射により、突然変異率を自然における値の2倍にする線量を倍加線量といい、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりやすい。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Cは誤り。遺伝的影響は、確率的影響に分類されます。これは試験によく出ますので、必ず覚えておきましょう。
Dは誤り。倍加線量は、その値が小さいほど遺伝的影響は起こりやすくなります。
A,Bは正しい。
問17 生物学的効果比(RBE)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)RBEは、次の式で定義される。
RBE=ある生物学的効果を引き起こすのに必要な基準放射線の吸収線量/同一の効果を引き起こすのに必要な対象放射線の吸収線量
(2)RBEを求めるときの基準放射線には、60Coのベータ線を用いる。
(3)エックス線は、そのエネルギーの高低にかかわらず、RBEが1より小さい。
(4)RBEの値は、同じ線質の放射線であれば、着目する生物学的効果、線量率などの条件が異なっても変わらない。
(5)RBEは放射線の線エネルギー付与(LET)に依存しており、どのような生物学的効果であっても、1 MeV/μm付近のLET値をもつ放射線のRBEの値が最大である。
(1)は正しい。
(2)は誤り。RBEを求めるときの基準放射線としては、通常、低LETであるエックス線やガンマ線が用いられます。
(3)は誤り。照射条件によっては、RBEが1より小さい場合、大きい場合があります。
(4)は誤り。線質の同じ放射線であっても、着目する生物学的効果によって、一般に生物学的効果比は異なります。
(5)は誤り。100 keV/μm付近のLET値をもつ放射線のRBEの値が最大になります。
問18 組織加重係数に関する次のAからDまでの記述のうち、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 組織加重係数は、各臓器・組織の確率的影響に対する相対的な放射線感受性を表す係数である。
B 組織加重係数が最も大きい組織・臓器は、脳である。
C 組織加重係数は、どの組織・臓器においても1より小さい。
D 被ばくした組織・臓器の平均吸収線量に組織加重係数を乗ずることにより、等価線量を得ることができる。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Bは誤り。現在、組織荷重係数が最も大きい組織・臓器は、生殖腺です。
Dは誤り。被ばくした組織・臓器の吸収線量に「放射線荷重係数」を乗ずることにより、等価線量を得ることができます。
A,Cは正しい。
問19 放射線によるDNAの損修と修復に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 放射線によるDNA損傷には、塩基損傷とDNA鎖切断があるが、エックス線のような間接電離放射線では、塩基損傷は生じない。
B DNA鎖切断のうち、二重らせんの片方だけが切れる1本鎖切断の発生頻度は、両方が切れる2本鎖切断の発生頻度より高い。
C 細胞にはDNA損傷を修復する機能があり、修復が誤りなく行われれば、細胞は回復する。
D DNA鎖切断のうち、2本鎖切断はDNA鎖の組換え現象が利用されるため、1本鎖切断に比べて容易に修復される。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは誤り。放射線がDNAに作用すれば、DNA損傷が生じるので、エックス線のような間接電離放射線でも、ラジカルの作用により塩基損傷とDNA鎖切断を生じます。
Dは誤り。DNA鎖切断のうち、1本鎖切断は2本鎖切断に比べて容易に修復されます。
B,Cは正しい。
問20 胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)着床前期に被ばくして生き残った胎児には、出生後、精神発達遅滞がみられる。
(2)胎内被ばくのうち、奇形の発生するおそれが最も大きいのは、胎児期の被ばくである。
(3)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(4)器官形成期の被ばくは、奇形を起こすおそれはないが、出生後、身体的な発育遅延が生じるおそれがある。
(5)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる発育遅延は、遺伝的影響である。
(1)は誤り。被ばくしても生き残り発育を続けて出生した子供には、被ばくによる影響はみられません。
(2)は誤り。胎児期の被ばくでは、脳の放射線感受性が高く、出生後、精神発達遅滞が生じることがあります。
(3)は正しい。
(4)は誤り。器官形成期の被ばくでは、奇形を生じるおそれがあります。
(5)は誤り。胎児は個体としてみなすため、胎児への放射線影響は、身体的影響になります。
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