X線作業主任者の過去問の解説:管理(2018年10月)
ここでは、2018年(平成30年)10月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2018年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2018年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2018年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2018年10月)
問1 工業用エックス線装置のエックス線管及びエックス線の発生に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線管の内部には、効率的にエックス線を発生させるためにアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。
(2)陽極のターゲットにタングステンが多く用いられる主な理由は、熱伝導率が高く、加工しやすいことである。
(3)陰極のフィラメント端子間の電圧は、フィラメント加熱用の降圧変圧器を用いて10~20V程度にされている。
(4)陽極のターゲット上のエックス線が発生する部分を実効焦点といい、これをエックス線束の利用方向から見たものを実焦点という。
(5)陽極のターゲットに衝突する電子の運動エネルギーがエックス線に変換する効率は、管電圧に比例し、ターゲット元素の原子番号に反比例する。
(1)は誤り。エックス線管の内部は、高度の真空状態となっています。もし内部にガスがあると、熱電子がターゲットに届くまでに、ガス分子が邪魔をしてしまいます。
(2)は誤り。タングステンが多く用いられる理由は高融点(約3,400℃)であることです。また、ターゲット元素にモリブデンが用いられることもありますが、こちらも高融点(約2,600℃)の金属元素です。
(3)は正しい。フィラメントは細い金属線ですので、フィラメント電圧が大きいと、すぐに焼き切れてしまいます。ですから、電源の電圧(100Vや200V)よりも、降圧するのです。
(4)は誤り。ターゲット上で熱電子がぶつかりエックス線が発生する部分を実焦点といいます。これをエックス線束の利用方向から見た部分を実効焦点といいます。
(5)は誤り。熱電子がエックス線に変換される効率(変換効率または発生効率)は、管電圧とターゲット元素の原子番号の積(掛け算)に比例します。
問2 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な最小値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することを、オージェ効果という。
(5)ターゲット元素がタングステンの場合のK励起電圧は、タングステンより原子番号の小さい銅やモリブデンの場合に比べて高い。
(1)は誤り。特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると短くなります。例えば、同じ系列の特性エックス線の波長は、原子番号42番のモリブデンは0.071nm、原子番号74番のタングステンは0.021nmです。なお、単位のnm(ナノメートル)は、m(メートル)を1,000で、3回割ったものです。
(2)は誤り。特性エックス線は、波長がターゲット元素の原子番号によって決まっていますので『線スペクトル』を示します。一方で、制動エックス線は連続スペクトルを示します。
(3)は誤り。管電圧が、K励起電圧を下回るときでも、L系列など他の系列の特性エックス線が発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果では、特性エックス線を発生させる代わりに外殻の電子を飛び出させます。
(5)は正しい。原子番号の大きい元素の方が、励起電圧は高くなります。K励起電圧は、原子番号42番のモリブデンは20.0kVで、原子番号74番のタングステンは69.5kVです。
問3 連続エックス線が物体を透過する場合の減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)連続エックス線が物体を透過するとき、平均減弱係数は、物体の厚さの増加に伴い大きくなる。
(2)連続エックス線が物体を透過すると、最高強度を示すエックス線のエネルギーは、低い方へ移動する。
(3)連続エックス線が物体を透過するとき、透過後の実効エネルギーは物体の厚さが増すほど高くなるが、物体が十分厚くなるとほぼ一定となる。
(4)連続エックス線は、物体を透過しても、その全強度は変わらない。
(5)連続エックス線が物体を透過するとき、透過エックス線の全強度が物体に入射する直前の全強度の2分の1となる物体の厚さをHaとし、直前の全強度の4分の1となる物体の厚さをHbとすれば、HbはHaの2倍である。
(1)は誤り。連続エックス線は、高低さまざまなエネルギーを持ったエックス線が混じり合っています。
その中でもエネルギーの低いエックス線は、減弱係数(原子とのぶつかりやすさ)が大きいです。
連続エックス線が物体を通り抜けるとき、エネルギーの低いエックス線は、物体の厚さが小さいところで、たくさんぶつかってしまいます。
すると残るのは、エネルギーの高いエックス線が多くなります。
エネルギーの高いエックス線は、減弱係数が小さいので、連続エックス線の平均の減弱係数は、物体の厚さが増すと『小さく』なります。
(2)は誤り。連続エックス線の中でも、エネルギーの低いエックス線の方が物体とたくさんぶつかります。
すると、最高強度を示す(1番量の多い)エックス線のエネルギーは、『高い方』へ移動します。
(3)は正しい。(1)の解答も参照してください。
連続エックス線が物体を通り抜けるとき、エネルギーの高いエックス線がたくさん残ります。
したがって、物体を通り抜けた後の全体のエネルギーは、物体の厚さが増すほど高くなります。
ただし、連続エックス線の最高エネルギーは決まっていますので、物体が十分厚くなるとほぼ一定になります。
(4)は誤り。連続エックス線が物体を通り抜けると、その全強度は『減少』します。全強度とは、エックス線の全部の量のことです。
(5)は誤り。連続エックス線が物体を通り抜けるとき、エネルギーの高いエックス線がたくさん残ります。
連続エックス線の全強度を最初の2分の1にする物体の厚さ(Ha)と、4分の1にする物体の厚さ(Hb)を比較すると、HbはHaの『2倍よりも大きく』なります。
問4 エックス線と物質との相互作用による光電効果に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)光電効果とは、エックス線光子が軌道電子にエネルギーを与え、電子が原子の外に飛び出し、光子が消滅する現象である。
(2)光電効果により、原子の外に飛び出した光電子の運動エネルギーは、入射エックス線光子のエネルギーより小さい。
(3)光電効果が起こると、特性エックス線が二次的に発生する。
(4)光電効果が発生する確率は、入射エックス線光子のエネルギーが高くなるほど増大する。
(5)光電効果が発生する確率は、物質の原子番号が大きくなるほど増大する。
(4)は誤り。光電効果の発生確率は、入射エックス線のエネルギーが高くなるほど『減少』します。
なお、入射エックス線のエネルギーが高くなると、コンプトン効果の発生確率も減少しますが、光電効果の方が急激に減少します。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問5 あるエックス線装置のエックス線管の焦点から1m離れた点における1cm線量当量率は8mSv/minであった。
このエックス線装置を用い、厚さ24mmの鋼板及び厚さ40mmのアルミニウム板にそれぞれ別々に照射したところ、透過したエックス線の1cm線量当量率はいずれも2mSv/minであった。
厚さ15mmの鋼板と厚さ15mmのアルミニウム板を重ね合わせ30mmとした板に照射した場合、透過後の1cm線量当量率は次のうちどれか。
ただし、エックス線は細い線束とし、測定点はいずれもエックス線管の焦点から1m離れた点とする。
また、鋼板及びアルミニウム板を透過した後の実効エネルギーは、透過前と変わらないものとし、散乱線による影響は無いものとする。
(1)0.1mSv/min
(2)0.5mSv/min
(3)1.0mSv/min
(4)1.5mSv/min
(5)2.0mSv/min
答え(5)
この問題は、鋼板とアルミニウム板という2種類の異なる板を重ね合わせて、そこにエックス線を照射したときの透過後の線量率を求めるものです。
まず、次の減弱の式を使って、鋼板とアルミニウム板の半価層hを計算します。
I=I0(1/2)x/h
先に、鋼板の半価層hです。
2[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)24[mm]/h[mm]
2[mSv/min]/8[mSv/min]=(1/2)24[mm]/h[mm]
1/4=(1/2)24[mm]/h[mm]
(1/2)2=(1/2)24[mm]/h[mm]
指数の部分を抜き出して計算します。
2=24[mm]/h[mm]
h[mm]=12[mm]…鋼板
次に、アルミニウム板の半価層hです。
2[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)40[mm]/h[mm]
2[mSv/min]/8[mSv/min]=(1/2)40[mm]/h[mm]
1/4=(1/2)40[mm]/h[mm]
(1/2)2=(1/2)40[mm]/h[mm]
指数の部分を抜き出して計算します。
2=40[mm]/h[mm]
h[mm]=20[mm]…アルミニウム板
2種類の異なる板を重ね合わせたときの減弱の式は次のようになります。
I=I0(1/2)x/h×(1/2)x/h
先の「(1/2)x/h」が鋼板の減弱を、後の「(1/2)x/h」がアルミニウム板の減弱を意味します。
それでは問題文の板の厚さの値と先ほど求めた半価層の値を代入して計算していきます。
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)15[mm]/12[mm]×(1/2)15[mm]/20[mm]
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)5[mm]/4[mm]×(1/2)3[mm]/4[mm]
このような形になると、指数の部分は足し算になります。
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)5[mm]/4[mm]+3[mm]/4[mm]
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)8[mm]/4[mm]
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)2
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/2)×(1/2)
I[mSv/min]=8[mSv/min](1/4)
I[mSv/min]=2[mSv/min]
したがって、透過後の1cm線量当量率は(5)2.0mSv/minとなります。
問6 エックス線の散乱に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句又は数値の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「エックス線装置を用い、管電圧100kVで、厚さが20mmの鋼板及びアルミニウム板のそれぞれにエックス線のビームを垂直に照射し、散乱角135°方向の後方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定してその大きさを比較したところ、[ A ]の後方散乱線の方が大きかった。
次に、同じ照射条件で、鋼板について、散乱角120°及び135°の方向の後方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定し、その大きさを比較したところ、[ B ]方向の方が大きかった。
また、同じ照射条件で、鋼板について、散乱角30°及び60°の方向の前方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定し、その大きさを比較したところ、[ C ]方向の方が大きかった。」
(1)[A]アルミニウム板 [B]120° [C]60°
(2)[A]アルミニウム板 [B]135° [C]30°
(3)[A]鋼板 [B]120° [C]60°
(4)[A]鋼板 [B]135° [C]30°
(5)[A]鋼板 [B]135° [C]60°
答え(2)
エックス線を照射する物体を鋼板からアルミニウム板に変えると、イラストのように後方散乱線の空気カーマ率は大きくなります。
なお、建設・工事関係の人は、コンクリート壁にエックス線を照射することが多いと思いますが、アルミニウムと密度が同程度なので、アルミニウム板と同程度の後方散乱線が発生します。
また、散乱線の空気カーマ率は、散乱角が90°のときに最も小さくなります。
これはコンプトン効果による散乱線の飛び散る方向などが影響しています。
したがって、イラストのように空気カーマ率は、120°<135°、30°>60°となります。
問7 単一エネルギーで太い線束のエックス線が物質を透過するときの減弱を表す場合に用いられる再生係数(ビルドアップ係数)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)再生係数は、1未満となることはない。
(2)再生係数は、線束の広がりが大きいほど大きくなる。
(3)再生係数は、入射エックス線のエネルギーや物質の種類によって異なる。
(4)再生係数は、物質の厚さが厚くなるほど大きくなる。
(5)再生係数は、入射エックス線の線量率が高くなるほど大きくなる。
(5)は誤り。再生係数は、線量率の影響を受けません。
再生係数は、物体を透過したエックス線のうち、測定器に入ってきた散乱線の割合です。
たとえば、線量率が大きくなっても、その割合は変わりません。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問8 透過試験に用いる工業用の分離形エックス線装置に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。
「工業用の分離形エックス線装置は、エックス線管、エックス線管冷却器、[ A ]、[ B ]、[ C ]及び低電圧ケーブルで構成される装置である。」
(1)[A]エックス線制御器 [B]管電流調整器 [C]高電圧ケーブル
(2)[A]エックス線制御器 [B]管電圧調整器 [C]管電流調整器
(3)[A]管電圧調整器 [B]管電流調整器 [C]高電圧ケーブル
(4)[A]高電圧発生器 [B]管電圧調整器 [C]管電流調整器
(5)[A]高電圧発生器 [B]エックス線制御器 [C]高電圧ケーブル
分離形エックス線装置では、高電圧発生器とエックス線管を高電圧ケーブルで接続します。
また、今回は工業用の「分離型エックス線装置」の構成について出題されましたが、「一体型エックス線装置」について出題されることもあります。
問9 エックス線の遮へい、散乱線の低減方法などに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)ろ過板として、管電圧120~300kVのエックス線装置にはアルミニウムが用いられるが、管電圧120kV以下のエックス線装置には銅が用いられる。
(2)絞りは、エックス線束の広がりを制限し、エックス線を必要な部分にだけ照射するために用いる。
(3)遮へい体としては、原子番号が大きく、密度の高い物質を用いるのがよい。
(4)鉛板、鋼板、コンクリートのうち、同一の厚さでの遮へい効果は、鉛板が最も大きい。
(5)照射筒は、放射口に取り付けるラッパ状の遮へい体で、エックス線束及び散乱線が外部へ漏えいしないようにするために用いる。
(1)は誤り。ろ過板は、透過試験に役立たない軟線(エネルギーの低いエックス線)を除去するための板です。管電圧120kV以下のエックス線装置には、厚さ数mmの『アルミニウム』などが用いられます。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問10 下図のように、エックス線装置を用いて鋼板の透過写真撮影を行うとき、エックス線管の焦点から2mの距離のP点における写真撮影中の1cm線量当量率は0.3mSv/hである。
エックス線管の焦点とP点を結ぶ直線上で、焦点からP点の方向に15mの距離にあるQ点を管理区域の境界の外側になるようようにすることができる1週間当たりの撮影可能な写真の枚数として、最大のものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、露出時間は1枚の撮影について100秒間であり、3か月は13週とする。
(1)290枚/週
(2)375枚/週
(3)430枚/週
(4)530枚/週
(5)675枚/週
答え(5)
この問題は、図のQ点が管理区域の境界線の外側にあるとき、1週間当たりの撮影可能な写真の最大枚数を求めるものです。
なお、管理区域とは、3か月あたり1.3mSvを超えるおそれのある区域です。
まず、週の撮影枚数をNとし、3か月当たりの全撮影時間を計算します。
全撮影時間=1枚当たりの露出時間×週の撮影枚数×3か月の週数
=100/3,600[h/枚]×N[枚/週]×13[週/3か月]
=(1,300/3,600)N[h/3か月]
割り切れない場合は、分数のまま計算した方が後の計算式がスッキリします。
次に、P点における3か月当たりの線量当量を計算します。
線量当量=線量当量率×全撮影時間
=0.3[mSv/h]×(1,300/3,600)N[h/3か月]
=(390/3,600)N[mSv/3か月]
それでは、逆2乗則を使って、週の撮影枚数Nを求めましょう。
逆2乗則は、強度が距離の2乗に反比例して減少する法則なので、次のような計算式で表されます。
強度(P点)/強度(Q点)=距離(Q点)2/距離(P点)2
(390/3,600)N[mSv/3か月]/1.3[mSv/3か月]=152[m]/22[m]
390N/1.3×3,600=225/4
390N=225×1.3×3,600/4
390N=263,250
N=263,250/390
N=675
したがって、Q点を管理区域の境界の外側になる1週間当たりの撮影可能な写真の最大枚数は、(5)675枚/週です。
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