X線作業主任者の過去問の解説:管理(2015年10月)
ここでは、2015年(平成27年)10月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2015年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2015年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2015年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2015年10月)
問1 工業用エックス線装置のエックス線管及びエックス線の発生に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線管の内部には、効率的にエックス線を発生させるためにアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。
(2)陽極のターゲットはエックス線管の軸に対して斜めになっており、エックス線が発生する領域である実焦点より、これをエックス線束の利用方向から見た実効焦点の方が大きくなるようにしてある。
(3)エックス線管の管電流は、陰極から陽極に向かって流れる。
(4)陽極のターゲットに衝突する直前の電子の運動エネルギーは、管電圧の2乗に比例する。
(5)陽極のターゲットに衝突する電子の運動エネルギーがエックス線に変換される効率は、管電圧とターゲット元素の原子番号の積に比例する。
(1)は誤り。エックス線管の内部は、ガスなどがない真空状態になっています。
(2)は誤り。エックス線が発生する領域である実焦点より、実効焦点の方が小さくなるようにしてあります。
(3)は誤り。管電流は、陽極から陰極に向かって流れます。
(4)は誤り。陽極のターゲットに衝突する直前の電子の運動エネルギーは、管電圧に比例します。2乗ではありません。
(5)は正しい。
問2 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な最小値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することをオージェ効果という。
(5)K系列の特性エックス線は、管電圧を上げると強度が増大するが、その波長は変わらない。
(1)は誤り。ターゲット元素の原子番号が大きくなると、特性エックス線の波長は、短くなります。
(2)は誤り。連続スペクトルではなく、線スペクトルを示します。
(3)は誤り。この場合でも、L系列やM系列の特性エックス線が発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果とは、電磁波として特性エックス線を放出する代わりに、そのエネルギーをより外側にある軌道の電子に与えて、原子の外に放出する現象をいいます。
(5)は正しい。
問3 エックス線装置について、次のAからDのように条件を変化させるとき、発生する連続エックス線の全強度を大きくするもののすべての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 管電流は一定にして、管電圧を2倍にする。
B 管電圧は1/2にして、管電流を2倍にする。
C 管電圧は2倍にして、管電流を1/2にする。
D 管電圧及び管電流は一定にして、ターゲットを原子番号のより大きな元素にする。
(1)A,B
(2)A,B,D
(3)A,C,D
(4)B,C
(5)C,D
全強度は「管電流」「ターゲットの原子番号」に比例します。また、全強度は「管電圧」の2乗に比例します。
これらの関係から考えると、A,C,Dの条件では、発生する連続エックス線の全強度が大きくなります。
問4 エックス線と物質との相互作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)光電効果が起こる確率は、入射エックス線のエネルギーが高くなると大きくなる。
(2)光電効果によって原子から放出される光電子の運動エネルギーは、入射エックス線のエネルギーより小さい。
(3)コンプトン効果により散乱するエックス線の散乱角は、0~90°の間に分布する。
(4)コンプトン効果により散乱したエックス線の波長は、入射エックス線の波長に等しい。
(5)エネルギーが0.5~1 MeVのエックス線は、主に電子対生成によって減弱する。
(1)は誤り。入射エックス線のエネルギーが高くなると、光電効果の発生率は小さくなります。
(2)は正しい。
(3)は誤り。コンプトン効果により散乱するエックス線の散乱角は、0~180°の間に分布します。一方で、コンプトン効果で発生する反跳電子は、0~90°に分布します。
(4)は誤り。コンプトン効果により散乱したエックス線の波長は、反跳電子にエネルギーを与えているため、入射エックス線の波長よりも長くなります。
(5)は誤り。エックス線のエネルギーが、1.02 MeVを超えなければ、電子対生成は起こりません。エネルギーが1.02 MeVを超えるエックス線は、主に電子対生成によって減弱します。
問5 単一エネルギーで太い線束のエックス線が物体を透過するときの減弱式における再生係数(ビルドアップ係数)Bを表す式として、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、Ip、Isは、次のエックス線の強度を表すものとする。
Ip:物体を直進して透過し、測定点に到達した透過線の強度
Is:物体により散乱されて、測定点に到達した散乱線の強度
(1)B=Ip/(Ip+Is)
(2)B=Is/(Ip+Is)
(3)B=Is/Ip
(4)B=(Ip+Is)/Is
(5)B=(Ip+Is)/Ip
ビルドアップ係数Bは、B=(Ip+Is)/Ipで表すことができます。
これを約分すると、B=1+(Is/Ip)となります。
ビルドアップ係数は、1より小さくなることはありません。
問6 工業用の一体形エックス線装置に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「工業用の一体形エックス線装置は、[ A ]及びエックス線管を一体としたエックス線発生器と[ B ]との間を[ C ]ケーブルで接続する構造の装置である。」
(1)[A]高電圧発生器 [B]制御器 [C]低電圧
(2)[A]管電圧調整器 [B]制御器 [C]高電圧
(3)[A]高電圧発生器 [B]管電圧調整器 [C]高電圧
(4)[A]管電流調整器 [B]管電圧調整器 [C]低電圧
(5)[A]管電圧調整器 [B]管電流調整器 [C]高電圧
この手の問題では、「一体形」と「分離形」が出題されます。
それぞれの構造を理解しておくことが大切です。
問7 エックス線を鋼板に照射したときの散乱線に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「前方散乱線の空気カーマ率は、散乱角が大きくなるに従って[ A ]し、また、鋼板の板厚が増すに従って[ B ]する。
後方散乱線の空気カーマ率は、エックス線装置の影になるような位置を除き、散乱角が大きくなるに従って[ C ]する。」
(1)[A]増加 [B]増加 [C]増加
(2)[A]増加 [B]減少 [C]増加
(3)[A]増加 [B]減少 [C]減少
(4)[A]減少 [B]増加 [C]減少
(5)[A]減少 [B]減少 [C]増加
前方散乱線の空気カーマ率は、散乱角が大きくなるに従って減少します。一方、後方散乱線の空気カーマ率は、散乱角が大きくなるに従って増加します。
前方散乱線の空気カーマ率は、鋼板の板厚が増すに従って減少します。一方、後方散乱線の空気カーマ率は、鋼板の板厚が増すに従って増加し、ある程度厚くなると一定になります。
問8 管理区域設定のための外部放射線の測定箇所の選定に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)作業者が立ち入る区域で線源に最も近い箇所又は遮へいの薄い箇所など、1 cm線量当量又は1 cm線量当量率が最大になると予測される箇所を含める。
(2)作業者が常に作業している箇所を含める。
(3)壁などの構造物によって区切られた境界の近辺の箇所を含める。
(4)位置によって測定値の変化が大きいと予測される場合は、測定点を密にとる。
(5)測定点の高さは、作業床面上約1.5 mの位置とする。
(5)は誤り。測定点の高さは、作業床面上約1 mの位置とします。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問9 単一エネルギーで細い線束のエックス線に対する鋼板の半価層が6 mmであるとき、1/10価層の値は次のうちどれか。
ただし、loge2=0.69、loge5=1.61とする。
(1)5 mm
(2)10 mm
(3)20 mm
(4)30 mm
(5)40 mm
答え(3)
半価層をhとしたとき、hを表す式は次のようになります。
h=loge2/μ
1/10価層をHとしたとき、Hを表す式は次のようになります。
H=loge10/μ
μは減弱係数です。
これらの式を計算すると、次のようになります。
H/h = (loge10/μ)/(loge2/μ)
H/h = loge10/loge2
H/h = (loge5+loge2)/loge2
H/h = loge5/loge2+1
H/h = 1.61/0.69+1
H/h ≒ 3.3
問題文では半価層は6 mmなので、1/10価層は次のように計算できます。
H=3.3×6 [mm]
H=19.8 [mm]
H≒20 [mm]
したがって、(3)20 mmが正解です。
問10 下図のように、エックス線装置を用いて鋼板の透過写真撮影を行うとき、エックス線管の焦点から4 mの距離のP点における写真撮影中の1 cm線量当量率は0.2 mSv/hである。
エックス線管の焦点とP点を結ぶ直線上で焦点からP点の方向に18 mの距離にあるQ点を管理区域の境界の外側になるようにすることができる1週間当たりの撮影枚数として、最大のものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、露出時間は1枚の撮影について150秒であり、3か月は13週とする。
(1)110枚/週
(2)240枚/週
(3)400枚/週
(4)540枚/週
(5)590枚/週
答え(2)
まず、ただし書き前半部分に「露出時間は1枚の撮影について150秒」とあるので、これを時間単位に直すと、次のようになります。
150 [s/枚] / 60 [s/min] = 2.5 [min/枚]
2.5 [min/枚] / 60 [min/h] ≒ 0.0417 [h/枚]
次に、「1週間当りの撮影枚数N」、先ほど求めた「露出時間0.0417 h/枚」、「P点における写真撮影中の1 cm線量当量率0.2 mSv/h」、問題文の最後にある「3月は13週」から、P点における3月当りの1 cm線量当量率を計算します。
0.0417 [h/枚] × 0.2 [mSv/h] × N [枚/週] × 13 [週/3月] = 0.10842N [mSv/3月]
続いて、今求めた「P点における3月当りの1 cm線量当量率0.10842N mSv/3月」、「焦点からP点までの距離4 m」、「管理区域の境界の線量率1.3 mSv/3月」、「焦点からQ点までの距離18 m」を、距離の逆二乗則に代入して計算します。
距離の逆二乗則は、強度が距離の2乗に反比例して減少する法則なので、次のような計算式で表されます。
強度A/強度B = 距離b2/距離a2
1.3 [mSv/3月] / 0.10842N [mSv/3月] = 42 [m] / 182 [m]
1.3 [mSv/3月] = 0.10842N [mSv/3月] × 42 [m] / 182 [m]
0.10842N [mSv/3月] × 42 [m] / 182 [m] = 1.3 [mSv/3月]
0.10842N [mSv/3月] = 1.3 [mSv/3月] × 182 [m] / 42 [m]
0.10842N [mSv/3月] = 1.3 [mSv/3月] × 324 [m] / 16 [m]
0.10842N [mSv/3月] = 26.325 [mSv/3月]
N ≒ 243 [枚/週]
問題の選択肢の中で、243枚/週以下で最大のものは、(2)240枚/週です。
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