X線作業主任者の過去問の解説:管理(2016年4月)
ここでは、2016年(平成28年)4月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
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◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2016年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2016年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2016年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2016年4月)
問1 エックス線管から発生する連続エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)管電圧が一定の場合、管電流を増加させると、連続エックス線の全強度は管電流に比例して増加する。
(2)管電圧が一定の場合、管電流を増加させると、連続エックス線の最短波長は短くなる。
(3)管電圧が一定の場合、管電流を増加させると、連続エックス線の最高強度を示す波長は長くなる。
(4)管電圧と管電流が一定の場合、ターゲット元素の種類を変えても、連続エックス線の全強度は変わらない。
(5)管電圧と管電流が一定の場合、ターゲット元素の原子番号が小さいほど、連続エックス線の最短波長は長くなる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。管電流を増加させても、連続エックス線の最短波長は変わりません。
(3)は誤り。管電流を増加させても、連続エックス線の最高強度を示す波長は変わりません。
(4)は誤り。ターゲット元素の種類を変えると、連続エックス線の全強度も変わります。たとえば、ターゲット元素の原子番号を大きくすると、連続エックス線の全強度はターゲット元素の原子番号に比例して増加します。
(5)は誤り。ターゲット元素の原子番号を小さくしても、連続エックス線の最短波長は変わりません。
問2 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な限界値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することを、オージェ効果という。
(5)K系列の特性エックス線は、管電圧を上げると強度が増大するが、その波長は変わらない。
(1)は誤り。この場合、波長は『短く』なります。
(2)は誤り。特性エックス線は、『線スペクトル』を示します。
(3)は誤り。管電圧が、K励起電圧を下回るときでも、L励起電圧、M励起電圧を上回ることがあるため、L系列やM系列の特性エックス線が発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果とは、電磁波として特性エックス線を放出する代わりに、そのエネルギーをより外側にある軌道の電子に与えて、原子の外に放出する現象をいいます。
(5)は正しい。
問3 連続エックス線が物体を透過する場合の減弱に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)連続エックス線が物体を透過すると、実効エネルギーは物体の厚さの増加に伴い低くなる。
(2)連続エックス線が物体を透過すると、全強度は低下し、特に低エネルギー成分の減弱が大きい。
(3)連続エックス線が物体を透過すると、最高強度を示すエックス線エネルギーは、高い方へ移動する。
(4)連続エックス線の実効エネルギーが高くなると、平均減弱係数は小さくなる。
(5)連続エックス線が物体を透過するとき、透過エックス線の全強度が物体に入射する直前の全強度の1/2になる物体の厚さをHaとし、直前の全強度の1/4になる物体の厚さをHbとすれば、HbはHaの2倍よりも大きい。
(1)は誤り。この場合、実効エネルギーは物体の厚さの増加に伴い『高く』なります。
これは、物体の厚さが増すと、連続エックス線の中でもエネルギーの小さいエックス線がより多く減弱されるためです。
つまり、エネルギーの大きいエックス線の割合が大きくなり、実効エネルギーも高くなります。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問4 エックス線と物質との相互作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)レイリー散乱により散乱されたエックス線の波長は、入射エックス線より長くなる。
(2)光電効果が起こる確率は、入射エックス線のエネルギーが高くなるほど低下する。
(3)光電効果により原子から放出される光電子の運動エネルギーは、入射エックス線のエネルギーと等しい。
(4)コンプトン効果により散乱したエックス線は波長がそろっており、互いに干渉して回折現象を起こす。
(5)コンプトン効果によるエックス線の散乱は、入射エックス線のエネルギーが高くなると、前方より後方に多く生じるようになる。
(1)は誤り。レイリー散乱による散乱エックス線の波長は変わりません。
(2)は正しい。
(3)は誤り。光電子の運動エネルギーは、入射エックス線のエネルギーより小さくなります。なぜなら、入射エックス線のエネルギーから電離エネルギー(原子から光電子が飛び出すために失うエネルギー)を差し引くからです。
(4)は誤り。散乱エックス線による回折現象は、レイリー散乱で起こります。
(5)は誤り。この場合は、『後方』より『前方』に多く生じるようになります。
問5 単一エネルギーで太い線束のエックス線が吸収体を通過するときの減弱を表す場合に用いられる再生係数(ビルドアップ係数)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)再生係数は、1未満となることはない。
(2)再生係数は、線束の広がりが大きいほど大きくなる。
(3)再生係数は、入射エックス線のエネルギーや吸収体の材質によって異なる。
(4)再生係数は、吸収体の厚さが厚くなるほど大きくなる。
(5)再生係数は、入射エックス線の線量率が大きいほど大きくなる。
(5)は誤り。再生係数は、『入射エックス線のエネルギー、線束の広がり、吸収体の種類、吸収体の厚さ』に依存します。したがって、線量率には依存しません。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問6 単一エネルギーの細いエックス線束が物体を透過するときの減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)半価層の値は、エックス線の線量率が高くなると大きくなる。
(2)半価層の値は、エックス線のエネルギーが変わっても変化しない。
(3)半価層h(cm)と減弱係数μ(cm-1)との間には、μh=log102の関係がある。
(4)半価層の5倍に相当する厚さが1/10価層である。
(5)硬エックス線の場合は、軟エックス線の場合より、半価層の値が大きい。
(1)は誤り。半価層の値は、『エックス線のエネルギー』又は『物体の種類』が変わると変化します。したがって、半価層の値は、エックス線の線量率が変わっても変化しません。
(2)は誤り。(1)の解答を参考にしてください。たとえば、エックス線のエネルギーが大きくなれば、半価層の値は大きくなります。
(3)は誤り。この場合正しくは、『μh=loge2』です。『μh=log102』ではありません。
(4)は誤り。半価層のおよそ『3.3倍』に相当する厚さが1/10価層になります。
(5)は正しい。硬エックス線はエネルギーの大きいエックス線のことです。一方、軟エックス線はエネルギーの小さいエックス線のことです。
問7 エックス線を利用する装置とその原理との組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
(1)エックス線CT装置 ・・・・・・・・・・ 回折
(2)エックス線応力測定装置 ・・・・・・・ 回折
(3)蛍光エックス線分析装置 ・・・・・・・ 分光
(4)エックス線マイクロアナライザー ・・・ 分光
(5)エックス線厚さ計 ・・・・・・・・・・ 散乱
(1)は誤り。エックス線CT装置は、『透過』の原理を利用した装置です。『回折』ではありません。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問8 管理区域設定のための外部放射線の測定に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線測定器は、国家標準とのトレーサビリティが明確になっている基準測定器又は数量が証明されている線源を用いて測定実施日の1年以内に校正されたものを用いる。
(2)測定は、原則として電離箱式サーベイメータを用いることとし、フィルムバッジなどの積算型放射線測定器は用いてはならない。
(3)測定点は、壁等の構造物によって区切られた領域の中央部と境界の床面上10 cmの位置の数箇所とする。
(4)あらかじめ計算により求めた1 cm線量当量又は1 cm線量当量率の高い箇所から低い箇所へ順に測定していく。
(5)あらかじめバックグラウンド値を調査しておき、これを測定値に加算して補正した値を測定結果とする。
(1)は正しい。校正は『1年以内』がポイントですね。
(2)は誤り。測定にフィルムバッジなどの積算型放射線測定器を用いても問題ありません。
(3)は誤り。測定点は、「壁等の構造物によって区切られた境界の近辺の箇所を含むこと。」「測定点の高さは、作業床面上約1 mの位置とすること。」などが定められています。
(4)は誤り。測定者が被ばくすることを考え、線量の『低い』箇所から『高い』箇所へ順に測定しなければなりません。
(5)は誤り。バックグラウンド値(自然に発生している放射線量)を、測定値から『差し引いて』、その値を測定結果とします。『加算』ではありません。
問9 あるエネルギーのエックス線に対する鉄の質量滅弱係数が0.5 cm2/gであるとき、このエックス線に対する鉄の1/10価層に最も近い厚さは次のうちどれか。 ただし、鉄の密度は7.9 g/cm3とし、loge2=0.69、loge5=1.61とする。
(1)3 mm
(2)4 mm
(3)5 mm
(4)6 mm
(5)7 mm
答え(4)
この問題は、1/10価層Hを求める問題です。
先に、鉄の質量減弱係数0.5 cm2/gと鉄の密度7.9 g/cm3がわかっていますので、次の質量減弱係数の式を使って、鉄の減弱係数を求めます。
質量減弱係数μm [cm2/g] =減弱係数μ [cm-1] / 密度ρ [g/cm3]
ここでは、鉄の減弱係数をμとします。
0.5 [cm2/g] = μ [cm-1] / 7.9 [g/cm3]
0.5 [cm2/g] × 7.9 [g/cm3] = μ [cm-1]
μ [cm-1] = 0.5 [cm2/g] × 7.9 [g/cm3]
μ [cm-1] = 3.95 [cm-1]
1/10価層Hは、減弱係数をμとすると次の式で表されます。
H = loge10 / μ
この式に、先ほど求めた鉄の減弱係数3.95 cm-1を代入し、問題文にある対数の式loge2=0.69、loge5=1.61を使って、1/10価層Hを計算します。
なお、loge10は、loge2+loge5に分解できます。
H [cm] = loge10 / μ [cm-1]
H [cm] = (loge2+loge5) / 3.95 [cm-1]
H [cm] = (0.69+1.61) / 3.95 [cm-1]
H [cm] = 2.3 / 3.95 [cm-1]
H [cm] ≒ 0.58 [cm] ≒ 0.6 [cm] ≒ 6 [mm]
したがって、(4)6 mmが正解です。
問10 波高値による管電圧が150 kVのエックス線管から発生するエックス線の最短波長(nm)に最も近い値は、次のうちどれか。
(1)0.001
(2)0.008
(3)0.02
(4)0.08
(5)0.2
答え(2)
この問題は、エックス線管から発生するエックス線の最短波長を求める問題です。
エックス線管から発生するエックス線の最短波長 nmは、管電圧 kVを用いて次の式で求めることができます。
最短波長 [nm] = 1.24 / 管電圧 [kV]
ここに、問題文の150 kVを代入して計算すると、次のようになります。
最短波長 [nm] = 1.24 / 150 [kV]
最短波長 [nm] ≒ 0.008 [nm]
したがって、(2)0.008が正解です。
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