X線作業主任者の過去問の解説:測定(2014年10月)
ここでは、2014年(平成26年)10月公表の過去問のうち「エックス線の測定に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
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問1 放射線防護のための被ばく線量の算定に関する次のAからDまでの記述について、正しいもののすべての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 外部被ばくによる実効線量は、1 cm線量当量により算定する。
B 眼の水晶体の等価線量は、放射線の種類及びエネルギーに応じて、1 cm線量当量又は70 μm線量当量のうち、いずれか適切なものにより算定する。
C 皮膚の等価線量は、エックス線については1 cm線量当量により算定する。
D 妊娠中の女性の腹部表面の等価線量は、腹・大腿部における70 μm線量当量により算定する。
(1)A,B
(2)A,B,D
(3)A,C,D
(4)B,C
(5)C,D
被ばく線量の算定において用いる線量当量には、『1 cm線量当量』と『70 μm線量当量』があります。
A,Bは正しい。
Cは誤り。皮膚の等価線量は、エックス線については『70 μm線量当量』により算定します。
Dは誤り。妊娠中の女性の腹部表面の等価線量は、腹・大腿部における『1 cm線量当量』により算定します。
問2 放射線に関連した量とその単位の組合せとして、誤っているものは次のうちどれか。
(1)吸収線量 ・・・・・・ J・kg-1
(2)等価線量 ・・・・・・ Sv
(3)カーマ ・・・・・・・ J・m-2
(4)照射線量 ・・・・・・ C・kg-1
(5)質量減弱係数 ・・・・ m2・kg-1
(1)は正しい。吸収線量の単位は、J・kg-1で特別な名称としてGyが用いられます。
(2)は正しい。等価線量の単位は、J・kg-1で特別な名称としてSvが用いられます。
(3)は誤り。カーマの単位は、、J・kg-1で特別な名称としてGyが用いられます。
(4)は正しい。照射線量の単位は、C・kg-1が用いられます。C(クーロン)は電荷の単位です。
(5)は正しい。質量減弱係数は、線減弱係数(m-1)を密度(kg・m-3)で割ったものですので、単位の計算をすると次のようになります。
m-1 ÷ kg・m-3 = m2・kg-1
問3 ある放射線測定器を用いてt秒間エックス線を測定し、計数率n cpsを得たとき、計数率の標準偏差(cps)を表すものは、次のうちどれか。
シンチレーション式サーベイメータなどは、放射線入射による放電の数を数えて、放射線量を測定します。
放電の数を数えるための装置が計数装置で、数えることができた放電数を計数値と言います。
そして、ある時間当たりの計数値を計数率と言い、cps(シーピーエス)などの単位で表します。
cpsは、1秒間当たりの計数値を意味します。
問題文にある標準偏差とは、バラツキを評価する指標で、ギリシャ文字のσ(シグマ)で表されます。
標準偏差は、計数率の平方根で求められます。
ですから、t秒間エックス線を測定し、計数率n cpsを得たとき、計数率の標準偏差σは、次の式で表されることになります。
したがって、答えは(4)になります。
問4 放射線の測定等の用語に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線が気体中で1個のイオン対を作るのに必要な平均エネルギーをW値といい、気体の種類には依存せず、放射線のエネルギーに応じてほぼ一定の値をとる。
(2)半導体検出器において、放射線が半導体中で1対の電子・正孔対を作るのに必要な平均エネルギーをG値という。
(3)GM計数管で放射線を計数するとき、分解時間内に入射した放射線は計数されないため、その分、計測値が減少することを数え落しという。
(4)GM計数管の動作特性曲線において、印加電圧の変動が計数率にほとんど影響を与えない範囲をプラトーといい、GM計数管は、プラトー領域より少し高い印加電圧で使用する。
(5)測定器の積分回路の時定数は、測定器の指示の即応性に関係したもので、時定数の値を大きくすると、応答速度は速くなるが、指示値の相対標準偏差が大きくなる。
(1)は誤り。W値は、『放射線のエネルギー(線質)』には依存せず、『気体の種類』に応じてほぼ一定の値をとります。
(2)は誤り。半導体中で1対の電子・正孔対を作るのに必要な平均エネルギーは、『ε値(イプシロンち)』と言われます。G値ではありません。
(3)は正しい。
(4)は誤り。GM計数管は、通常、プラトー領域の中央部より少し低い印加電圧で使用します。
(5)は誤り。時定数の値を大きくすると、応答速度は遅くなり、指示値の相対標準偏差が小さくなります。
問5 気体の電離を利用する放射線検出器の印加電圧と生じる電離電流の特性に対応した次のAからDまでの領域について、気体増幅が生じ、検出器として利用されているものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 再結合領域
B 電離箱領域
C 比例計数管領域
D GM計数管領域
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
気体増幅とは、放射線検出器内において一次電離した電子が、陽極にむかって加速され多量に電荷量が増える現象のことです。
気体増幅のことを、ガス増幅ということもあります。
問6 次のエックス線とその測定に用いるサーベイメータとの組合せのうち、不適切なものはどれか。
(1)30 keV程度のエネルギーで、1 mSv/h程度の線量率のエックス線
・・・・・NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータ
(2)50~200 keVのエネルギー範囲で、50 μSv/h程度の線量率のエックス線
・・・・・電離箱式サーベイメータ
(3)100 keV程度のエネルギーで、10 μSv/h程度の線量率のエックス線
・・・・・半導体式サーベイメータ
(4)300 keV程度のエネルギーで、10 mSv/h程度の線量率のエックス線
・・・・・電離箱式サーベイメータ
(5)300 keV程度のエネルギーで、100 μSv/h程度の線量率のエックス線
・・・・・GM計数管式サーベイメータ
(1)は不適切。NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータは、30 keV程度の低エネルギーのエックス線の測定には不向きです。
(2)は適切。電離箱式サーベイメータは、エックス線のエネルギー範囲にバラツキがある場合の測定にも向いています。
(3)は適切。半導体式サーベイメータは、低エネルギーのエックス線の測定には不向きですが、測定可能な線量率の下限が小さく、測定可能な線量率の範囲が広いのが特徴です。
(4)は適切。電離箱式サーベイメータは、高線量率のエックス線の測定にも向いています。
(5)は適切。GM計数管式サーベイメータは、高線量率のエックス線の測定には不向きですが、100 μSv/h程度の線量率は測定できます。
問7 次の図は、GM計数管が入射放射線を検出し一度放電した後、次の入射放射線に対する出力パルスが時間経過に伴い変化する様子を示したものである。 図中のA、B及びCに相当する時間の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
(1)[A]不感時間 [B]分解時間 [C]回復時間
(2)[A]不感時間 [B]回復時間 [C]分解時間
(3)[A]分解時間 [B]不感時間 [C]回復時間
(4)[A]回復時間 [B]分解時間 [C]不感時間
(5)[A]回復時間 [B]不感時間 [C]分解時間
GM計数管内でエックス線を検出すると、放電が起こり図のようにパルス信号を検出することができます。
一度放電した後、次の放電が起こるまでの時間は、短い方から『不感時間』『分解時間』『回復時間』の順番です。
問8 次のAからDまでの放射線測定器について、作業中に随時、線量の確認ができるものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 蛍光ガラス線量計
B 半導体式ポケット線量計
C 光刺激ルミネセンス(OSL)線量計
D 電離箱式PD型ポケット線量計
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
B半導体式ポケット線量計は、被ばく量をデジタル表示できる放射線測定器です。
D電離箱式PD型ポケット線量計は、直読式の放射線測定器で機器を上部からのぞき込むと被ばく量を読み取ることができます。
A蛍光ガラス線量計とC光刺激ルミネセンス(OSL)線量計は、専用の読み取り装置が必要なので作業中に読み取ることができません。
問9 被ばく線量測定のための放射線測定器に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)フィルムバッジは、写真乳剤を塗付したフィルムを現像したときの黒化度により被ばく線量を評価する線量計で、数種類のフィルターを通したフィルム濃度の変化から、放射線の実効エネルギーを推定することができる。
(2)熱ルミネセンス線量計は、放射線照射後、素子を加熱することによって発する蛍光の強度から線量を読み取る線量計で、一度線量を読み取った後も素子に情報が残るので、線量の読み取りは繰り返し行うことができる。
(3)電荷蓄積型(DIS)線量計は、不揮発性メモリ素子(MOSFETトランジスタ)を電離箱の構成要素の一部とした線景計で、線量の読み取りは専用のリーダを用いて行う。
(4)蛍光ガラス線量計は、放射線照射により形成された蛍光中心に紫外線を当て、生じる蛍光を測定することにより線量を読み取る線量計で、素子には銀活性リン酸塩ガラスが用いられている。
(5)光刺激ルミネセンス線量計は、輝尽性蛍光を利用した線量計で、検出素子には炭素添加酸化アルミニウムなどが用いられている。
(2)は誤り。熱ルミネセンス線量計は、一度線量を読み取ると素子から情報が消失してしまうため、線量の読み取りには注意が必要です。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
問10 電離箱式サーベイメータを用い、積算1 cm線量当量のレンジ(フルスケールは10 μSv)を使用して、ある場所で、波高値による管電圧250 kVのエックス線装置によるエックス線を測定したところ、フルスケールまで指針が振れるのに200秒かかった。
このエックス線装置によるエックス線の最短波長に最も近い値及びこの場所における1 cm線量当量率に最も近い値の組合せは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、このエックス線に対するサーベイメータの校正定数は、0.95とする。
[A]= 最短波長(nm)、[B]= 1 cm線量当量率(μSv/h)
(1)[A]1.3 × 10-3 [B]160
(2)[A]2.5 × 10-3 [B]160
(3)[A]2.5 × 10-3 [B]170
(4)[A]5.0 × 10-3 [B]170
(5)[A]5.0 × 10-3 [B]180
この問題では『エックス線の最短波長』と『真の1 cm線量当量率』を求めます。
まず、エックス線装置から発生するエックス線の最短波長を求めます。
最短波長を求める式は、次の通りです。ここでは、最短波長をλ minとし、エックス線装置の管電圧をVとします。
λ min [nm] = 1.24 / V [kV]
問題文では、「管電圧250 kVのエックス線装置によるエックス線」とあるので、代入しましょう。
λ min [nm] = 1.24 / 250 [kV]
≒ 0.0050 [nm]
= 5.0 × 10-3 [nm]
これで、エックス線の最短波長は、5.0 × 10-3 nmだとわかりました。
次に、電離箱式サーベイメータの真の1 cm線量当量率を求めます。
問題文に「エックス線を測定したところ、フルスケールまで指針が振れるのに200秒かかった。」とあるので、指針がフルスケールまで振れた時間200秒を、時間単位に直します。
200 [s] / 60 [s/min] ≒ 200/60 [min]
(200/60) [min] / 60 [min/h] = 200/3600 [h]
続いて、問題文には「フルスケールは10 μSv」とありますので、10 μSvを先ほど求めた時間200/3600 hで割って1 cm線量当量率を求めます。
10 [μSV] / (200/3600) [h] = 180 [μSV/h]
最後に、問題文のただし書きに「このエックス線に対するサーベイメータの校正定数は、0.95とする。」とありますので、先ほど求めた1 cm線量当量率180 μSV/hに校正定数0.95を掛けて真の1 cm線量当量率を求めます。
180 [μSV/h] × 0.95 = 171 [μSV/h]
これで、真の1 cm線量当量率は171 μSV/hだとわかりました。
問題文では「最も近い値の組合せは?」とありますので、(4)[A]最短波長 5.0 × 10-3 nm、[B]1 cm線量当量率 170 μSv/hが正解となります。
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