X線作業主任者の過去問の解説:生体(2015年4月)
ここでは、2015年(平成27年)4月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。
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問11 放射線の細胞に対する影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)細胞分裂の周期のM期(分裂期)の細胞は、S期(DNA合成期)後期の細胞より放射線感受性が高い。
(2)細胞分裂の周期のG1期(DNA合成準備期)後期の細胞は、G2期(分裂準備期)初期の細胞より放射線感受性が高い。
(3)皮膚の基底細胞は、角質層の細胞より放射線感受性が高い。
(4)小腸の絨毛先端部の細胞は、線窩細胞(クリプト細胞)より放射線感受性が高い。
(5)将来行う細胞分裂の回数の多い細胞ほど放射線感受性は一般に高い。
(4)は誤り。小腸の絨毛先端部の細胞は、線窩細胞より放射線感受性が低いです。ちなみに、「絨毛」は「じゅうもう」、「線窩細胞」は「せんかさいぼう」と読みます。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問12 放射線の生体に対する作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)直接作用では、放射線により水分子から生じたラジカルが、生体高分子に損傷を与える。
(2)間接作用では、放射線により生じた二次電子が、生体高分子を電離又は励起し、生体高分子に損傷を与える。
(3)低LET放射線が生体に与える影響は、間接作用によるものより直接作用によるものの方が大きい。
(4)生体中にシステインなどのSH基を有する化合物が存在すると、放射線が生体に与える影響が軽減されることは、直接作用により説明される。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて同一線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って酵素の全分子のうち不活性化される分子の占める割合が増加することは、間接作用により説明される。
(1)は誤り。直接作用では、放射線により生じた二次電子が、生体高分子を構成する原子と、直接、相互作用することにより、生体高分子を破壊して細胞に障害を与える作用のことです。
(2)は誤り。間接作用では、放射線により水分子から生じたラジカルが、生体高分子を破壊し、細胞に損傷を与える作用のことです。
(3)は誤り。エックス線のような低LET放射線が生体に与える影響は、直接作用によるものより間接作用によるものの方が大きいです。
(4)は誤り。これは防護効果ですが、間接作用により説明されます。
(5)は正しい。
問13 放射線によるDNAの損傷と修復に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)DNA損傷には、塩基損傷とDNA鎖切断がある。
(2)DNA損傷は、細胞死や突然変異を誘発することがある。
(3)DNA鎖切断のうち、二重らせんの片方だけが切れる1本鎖切断の発生頻度は、両方が切れる2本鎖切断の発生頻度より高い。
(4)細胞には、DNA損傷を修復する機能があり、修復が誤りなく行われれば、細胞は回復する。
(5)DNA鎖切断のうち、2本鎖切断はDNA鎖の組換え現象が利用されるため、1本鎖切断に比べて容易に修復される。
(5)は誤り。DNA鎖切断のうち、1本鎖切断は2本鎖切断に比べて容易に修復されます。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問14 人体の組織・器官について、放射線感受性の高い方から順に並べたものは次のうちどれか。
(1)筋肉、甲状腺、骨髄
(2)甲状腺、小腸粘膜、汗腺
(3)甲状腺、リンパ組織、筋肉
(4)小腸粘膜、汗腺、筋肉
(5)筋肉、小腸粘膜、甲状腺
(1)は誤り。正しくは、骨髄、甲状腺、筋肉の順です。
(2)は誤り。正しくは、小腸粘膜、汗腺、甲状腺の順です。
(3)は誤り。正しくは、リンパ組織、甲状腺、筋肉の順です。
(4)は正しい。
(5)は誤り。正しくは、小腸粘膜、甲状腺、筋肉の順です。
問15 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)確率的影響では、被ばく線量が増加すると、影響の重篤度が大きくなる。
(2)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、指数関数で示される。
(3)確率的影響の発生確率は、実効線量により評価される。
(4)遺伝的影響は、確定的影響に分類される。
(5)しきい線量は、確率的影響には存在するが、確定的影響には存在しない。
(1)は誤り。確率的影響では、被ばく線量が増加しても、影響の重篤度は変わりません。
(2)は誤り。確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示されます。
(3)は正しい。
(4)は誤り。遺伝的影響は、確率的影響に分類されます。
(5)は誤り。しきい線量は、確定的影響には存在しますが、確率的影響には存在しません。
問16 ヒトが一時に全身に放射線を被ばくした場合の早期影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)2 Gy以下の被ばくでは、放射線宿酔の症状が現れることはない。
(2)3~5 Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(3)被ばくした全員が、60日以内に死亡する線量の最小値は、約4 Gyである。
(4)半致死線量(LD50/60)に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものである。
(5)10~15 Gy程度の被ばくによる死亡は、主に中枢神経系の障害によるものである。
(1)は誤り。放射線宿酔の症状は、1 Gy程度の被ばくで現れるとされています。
(2)は正しい。
(3)は誤り。被ばくした半数が、60日以内に死亡する線量の最小値は、約4 Gyです。全数ではありません。
(4)は誤り。半致死線量(LD50/60)に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものです。
(5)は誤り。10~15 Gy程度の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものです。
問17 胎内被ばくに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)着床前期の被ばくでは胚の死亡が起こることがあるが、被ばくしても生き残り、発育を続けて出生した子供には、被ばくによる影響はみられない。
(2)器官形成期の被ばくでは、奇形が生じることがある。
(3)胎児期の被ばくでは、出生後、精神発達遅滞がみられることがある。
(4)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(5)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる精神発達遅滞は、確率的影響に分類される。
(5)は誤り。精神発達遅滞は、確定的影響に分類されます。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問18 放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)遺伝的影響の原因は、生殖細胞の突然変異であり、突然変異には遺伝子突然変異と染色体異常がある。
(2)生殖腺が被ばくしたときに生じるおそれのある障害には、遺伝的影響のほか、身体的影響もある。
(3)小児が被ばくした場合でも、遺伝的影響が生じるおそれがある。
(4)遺伝的影響は、次世代だけでなく、それ以後の世代に現れる可能性もある。
(5)倍加線量は、放射線による遺伝的影響を推定する指標で、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりやすい。
(5)は誤り。倍加線量は、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりにくいです。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問19 生物学的効果比(RBE)に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A RBEは、次の式で定義される。
RBE=ある生物学的効果を引き起こすのに必要な基準放射線の吸収線量/同一の効果を引き起こすのに必要な対象放射線の吸収線量
B RBEを求めるときの基準放射線としては、通常、アルファ線が用いられる。
C RBEの値は、同じ線質の放射線であっても、着目する生物学的効果、線量率などの条件によって異なる。
D RBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)が1 MeV/μm付近で最大値を示す。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは正しい。
Bは誤り。RBEを求めるときの基準放射線としては、低LET放射線である、エックス線やガンマ線が用いられます。
Cは正しい。
Dは誤り。RBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)が100 keV/μm付近で最大値を示します。
問20 放射線による身体的影響に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 白内障は、早期影響に分類され、その潜伏期は3~10週間である。
B 皮膚障害のうち、脱毛は、潜伏期が6か月程度で、晩発影響に分類される。
C 晩発影響である白血病の潜伏期は、その他のがんに比べて一般に短い。
D 晩発影響には、その重篤度が、被ばく線量に依存するものとしないものがある。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは誤り。白内障は、晩発影響に分類されます。その潜伏期は平均2~3年です。
Bは誤り。皮膚障害のうち、脱毛は、潜伏期が3週間程度で、早期影響に分類されます。
Cは正しい。
Dは正しい。
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