X線作業主任者の過去問の解説:生体(2024年10月)
ここでは、2024年(令和6年)10月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問31~問40)」について解説いたします。
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問31 放射線感受性に関する次の記述のうち、ベルゴニー・トリボンドーの法則に従っていないものはどれか。
(1)リンパ球は、骨髄中だけでなく、末梢(しょう)血液中においても感受性が高い。
(2)皮膚の基底細胞層は、角質層より感受性が高い。
(3)小腸の腺窩(か)細胞(クリプト細胞)は、絨(じゅう)毛先端部の細胞より感受性が高い。
(4)骨組織は、一般に放射線感受性が低いが、小児では比較的高い。
(5)脳の神経組織の放射線感受性は、成人では低いが、胎児では高い時期がある。
答え(1)
ベルゴニー・トリボンドーの法則では、細胞分裂が盛んなほど、未分化であるほど、代謝活動が高いほど放射線感受性が高いとされています。
(1)法則に従っていない。リンパ球は代謝活性が低く、法則には該当しませんが、実際には高感受性を示す例外的存在です。
(2)(3)(4)(5)は法則に従っている。
問32 次のAからCの人体の組織・器官について、放射線感受性の高いものから順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
A 毛のう
B 小腸粘膜
C 甲状腺
(1)A,B,C
(2)A,C,B
(3)B,A,C
(4)B,C,A
(5)C,A,B
B:小腸粘膜は、分裂が活発な細胞が多いです。
A:毛のうは、分裂しますが、小腸粘膜ほどではありません。
C:甲状腺は、ホルモン合成に関連しますが、分裂頻度は低いです。
問33 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)人が全身にLD50/60に相当する線量を被ばくしたときの主な死因は、造血器官の障害である。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)末梢(しょう)血液中の血球数の減少は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢(しょう)血液中の血球のうち、被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢(しょう)血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。
(1)は正しい。LD50/60は、被ばく後60日以内に50%が死亡する線量です。この線量被ばくの主な死因は、造血器官の障害です。
(2)は誤り。脊髄は造血に関与せず、骨髄が関与します。
(3)は誤り。1Gy以下でもリンパ球減少は観察されます。
(4)は誤り。減少が現れるのが最も遅いものは赤血球です。
(5)は誤り。赤血球減少は貧血を招きますが、感染抵抗性低下は白血球減少が原因です。
問34 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)確率的影響では、被ばくした集団中の影響の発生確率は、被ばく線量の増加とともに増加する。
(2)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示される。
(3)遺伝的影響には、確率的影響に分類されるものと確定的影響に分類されるものがある。
(4)早期影響は、全て確定的影響に分類される。
(5)しきい線量は、確定的影響には存在するが、確率的影響には存在しないと考えられている。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。遺伝的影響は確率的影響のみで、確定的影響には分類されるものはありません。
問35 放射線による身体的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)身体的影響には、その重篤度が、被ばく線量に依存するものとしないものがある。
(2)放射線により眼の水晶体上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生する。
(3)放射線による不妊は、晩発影響に分類される。
(4)白血病以外の放射線による発がんは、一般に、がん好発年齢に達したころから増加するので、被ばく時の年齢が若いほど潜伏期が長くなる。
(5)放射線による白血病は、被ばく線量が大きくなるほど潜伏期が短くなる。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
(3)は誤り。不妊は早期影響に分類されます。
問36 次のAからDの放射線影響について、その発症にしきい線量が存在するものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 白血球減少
B 永久不妊
C 甲状腺がん
D 脱毛
(1)A,B,D
(2)A,C
(3)A,C,D
(4)B,C
(5)B,D
答え(1)
しきい線量が存在する影響は、確定的影響です。
A:放射線による白血球減少などの造血器障害は、しきい線量があります。
B:卵巣・精巣の損傷による永久不妊は、しきい線量があります。
C:甲状腺がんは、確率的影響で、しきい線量はありません。
D:脱毛は、しきい線量が存在するため、放射線量が一定値を超えると起こります。
問37 生物効果比(RBE)に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)RBEは、次の式で定義される。
RBE=ある反応を起こす基準放射線の吸収線量/同じ反応を起こす試験放射線の吸収線量
(2)RBEを求めるための基準となる放射線としては、60Coのベータ線が用いられる。
(3)培養細胞の致死作用に関するRBEは、放射線の線エネルギー付与(LET)が高くなるにつれて増大し、最大値に達した後はほぼ一定の値となる。
(4)ある生物効果についてのRBEの値は、同じ線質の放射線であれば、線量率、温度、酸素分圧などの照射条件が異なっても変わらない。
(5)エックス線は、そのエネルギーの高低にかかわらず、RBEが1より小さい。
(1)は正しい。RBE = 基準放射線の線量÷試験放射線の線量です。
(2)は誤り。基準放射線には、エックス線やガンマ線が用いられます。ベータ線ではありません。
(3)は誤り。LETが増加するとRBEも増加し、最大値の後に減少します。
(4)は誤り。RBEは照射条件(線量率、酸素分圧など)で変動します。
(5)は誤り。エックス線のRBEは、1より大きい場合も、小さい場合もあります。
問38 組織加重係数に関する次のAからDの記述のうち、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 組織加重係数は、各組織・臓器の確率的影響に対する相対的な放射線感受性を表す係数である。
B 組織加重係数が最も大きい組織・臓器は、生殖腺である。
C 組織加重係数は、どの組織・臓器においても1より小さい。
D 被ばくした組織・臓器の平均吸収線量に組織加重係数を乗ずることにより、等価線量を得ることができる。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
A,Cは正しい。
Bは誤り。組織加重係数が最も大きい組織・臓器は、骨髄(赤色)、結腸、肺、胃などです。
Dは誤り。被ばくした組織・臓器の平均吸収線量に放射線加重係数を乗ずることにより、等価線量を得ることができます。組織加重係数ではありません。
問39 放射線による生物効果に関する次の現象のうち、放射線の間接作用によって説明することができないものはどれか。
(1)エックス線光子と生体内の水分子を構成する原子との相互作用の結果生成されたラジカルが、生体高分子に損傷を与える。
(2)温度が低下すると、放射線の生物効果は減少する。
(3)生体中にシステイン、システアミンなどのSH基をもつ化合物が存在すると、放射線の生物効果は軽減する。
(4)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、不活性化される酵素の分子数は酵素の濃度に比例する。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子のうち、不活性化される分子の占める割合は増加する。
(1)(2)(3)(5)は間接作用によって説明できる。
(4)は間接作用によって説明できない。間接作用では、酵素の濃度を変えたとしても、不活性化される酵素の分子数は酵素の濃度に対して一定です。
問40 放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)生殖腺が被ばくしたときに生じる障害は、全て遺伝的影響である。
(2)親の体細胞に突然変異が生じると、子孫に遺伝的影響が生じる。
(3)胎児期に被ばくし、成長した子供には、その後に遺伝的影響を起こすことはない。
(4)胎内被ばくを受け、出生した子供にみられる発育遅延は、遺伝的影響である。
(5)倍加線量は、放射線による遺伝的影響を推定する指標とされ、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりにくい。
(1)は誤り。生殖腺の障害の一部(不妊)は、身体的影響です。
(2)は誤り。体細胞の突然変異は、遺伝的影響を起こしません。
(3)は誤り。胎児期に被ばくし成長した子供も、将来子孫を残すときに、遺伝的影響を起こすおそれがあります。
(4)は誤り。胎内被ばくにより起こる発育遅延は、身体的影響です。
(5)は正しい。
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