X線作業主任者の過去問の解説:測定(2020年10月)
ここでは、2020年(令和2年)10月公表の過去問のうち「エックス線の測定に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2020年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2020年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2020年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2020年10月)
問1 放射線の量とその単位に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)吸収線量は、電離放射線の照射により、単位質量の物質に付与されたエネルギーをいい、単位は J/kgで、その特別な名称としてGyが用いられる。
(2)カーマは、エックス線などの間接電離放射線の照射により、単位質量の物質中に生じた二次荷電粒子の初期運動エネルギーの総和であり、単位はJ/kgで、その特別な名称としてGyが用いられる。
(3)等価線量の単位は吸収線量と同じJ/kgであるが、吸収線量と区別するため、その特別な名称としてSvが用いられる。
(4)実効線量は、放射線防護の観点から定められた量であり、単位はC/kgで、その特別な名称としてSvが用いられる。
(5)eV(電子ボルト)は、放射線のエネルギーの単位として用いられ、1eVは約1.6×10-19Jに相当する。
(4)は誤り。実効線量は、放射線防護の観点から定められた量です。単位は「J/kg」で、その特別な名称としてSvが用いられます。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問2 放射線防護のための被ばく線量の算定に関する次のAからDの記述について、正しいものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 外部被ばくによる実効線量は、法令に基づき放射線測定器を装着した各部位の1cm線量当量及び70μm線量当量を用いて算定する。
B 皮膚の等価線量は、エックス線については1cm線量当量により算定する。
C 眼の水晶体の等価線量は、放射線の種類及びエネルギーに応じて、1cm線量当量又は70μm線量当量のうちいずれか適切なものにより算定する。
D 妊娠と診断された女性の腹部表面の等価線量は、腹・大腿(たい)部における1cm線量当量により算定する。
(1)A,B,C
(2)A,B,D
(3)A,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは誤り。外部被ばくによる実効線量は、「1cm線量当量」により算定します。
Bは誤り。皮膚の等価線量は、エックス線については「70μm線量当量」により算定します。
C,Dは正しい。
ただし、「眼の水晶体の等価線量の算定方法」について、法改正がありました。
【改正前】1cm線量当量又は70μm線量当量のうちいずれか適切なものにより算定
【改正後】1cm線量当量、3mm線量当量又は70μm線量当量のいずれか適切なものにより算定
改正日は令和2年4月1日で、施行日は令和3年4月1日です。
またこれに関連する他の内容についても改正されています。
施行日以降は、新基準での解答が求められますのでご注意ください。
【関連記事】法令改正による眼の被ばく限度の引き下げ等について
問3 放射線の測定の用語に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)放射線が気体中で1個のイオン対を作るのに必要な平均エネルギーをW値といい、放射線の種類やエネルギーにあまり依存せず、気体の種類に応じてほぼ一定の値をとる。
(2)放射線が半導体中で1個の電子・正孔対を作るのに必要なエネルギーをG値といい、シリコンの結晶では100eV程度である。
(3)放射線計測において、測定しようとする放射線以外の、自然又は人工線源からの放射線を、バックグラウンド放射線という。
(4)入射放射線によって気体中に作られたイオン対のうち、電子が電界で強く加速され、更に多くのイオン対を発生させることを気体(ガス)増幅という。
(5)計測器がより高位の標準器又は基準器によって次々と校正され、国家標準につながる経路が確立されていることをトレーサビリティといい、放射線測定器の校正は、トレーサビリティが明確な基準測定器又は基準線源を用いて行う必要がある。
(2)は誤り。半導体検出器において、荷電粒子(放射線)が半導体中で1個の電子・正孔対を作るのに必要な平均エネルギーを「ε値(イプシロンち)」といい、シリコンの場合は約3.6eV、ゲルマニウムの場合は約2.8eVです。
(1)(3)(4)(5)は正しい。
問4 GM計数管に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)GM計数管の内部には電離気体として用いられる空気のほか、放射線によって生じる放電を短時間で消滅させるための消滅(クエンチング)ガスとしてアルゴンなどの希ガスが混入されている。
(2)回復時間は、入射放射線により一度放電し、一時的に検出能力が失われた後、パルス波高が弁別レベルまで回復するまでの時間で、GM計数管が測定できる最大計数率に関係する。
(3)プラトーが長く、その傾斜が小さいプラトー特性のGM計数管は、一般に性能が劣る。
(4)GM計数管は、プラトー部分の中心部より高い印加電圧で使用する。
(5)GM計数管では、入射放射線のエネルギーを分析することができない。
(1)は誤り。GM計数管の内部には、検出気体として通常アルゴン等の希ガスに少量のアルコール蒸気、またはハロゲンガスなどの消滅ガス(クエンチングガス)を混合したものが封入されています。
(2)は誤り。パルス信号が弁別レベルまで回復し、パルスを計数できるようになるまでの時間を「分解時間」といい、GM計数管が測定できる最大計数率に関係します。
(3)は誤り。プラトーは、印加電圧の変動が計数率にほとんど影響を与えない範囲のことなので、プラトーの長さが長く、プラトーの傾きが小さいプラトー特性のGM計数管の方が、一般に「性能が良い」ものになります。
(4)は誤り。GM計数管は、通常、管の寿命を長持ちさせるために、プラトーの中央部より少し「低い」印加電圧(プラトーの始まりから3分の1程度の印加電圧)で使用します。
(5)は正しい。GM計数管では、入射放射線によって生じる一次イオン対の量とは無関係に、出力パルスが得られます。そのためエネルギー分析ができません。
問5 次のエックス線とその測定に用いるサーベイメータの組合せのうち、適切でないものはどれか。
(1)散乱線を多く含むエックス線
…………… 電離箱式サーベイメータ
(2)0.1μSv/h程度の低線量率のエックス線
…………… シンチレーション式サーベイメータ
(3)200mSv/h程度の高線量率のエックス線
…………… 電離箱式サーベイメータ
(4)湿度の高い場所における100μSv/h程度のエックス線
…………… GM計数管式サーベイメータ
(5)10keV程度の低エネルギーのエックス線
…………… 半導体式サーベイメータ
(5)は適切でない。半導体式サーベイメータは、低エネルギーのエックス線の測定には向いていません。電離箱式サーベイメータであれば、低エネルギーのエックス線の測定に向いています。
(1)(2)(3)(4)は適切。
問6 次のAからDの放射線検出器について、放射線のエネルギー分析が可能なものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 電離箱
B 比例計数管
C 半導体検出器
D シンチレーション検出器
(1)A,B
(2)A,B,D
(3)A,C
(4)B,C,D
(5)C,D
エネルギー分析とは、放射線検出器に入ってきた放射線エネルギーが何eVなのかを分析することです。
B比例計数管、C半導体検出器、Dシンチレーション検出器は、エネルギー分析が可能な検出器です。
問7 男性の放射線業務従事者が、エックス線装置を用い、肩から大腿(たい)部までを覆う防護衣を着用して放射線業務を行った。
法令に基づき、胸部(防護衣の下)及び頭・頸(けい)部の2か所に放射線測定器を装着して、被ばく線量を測定した結果は、次の表のとおりであった。
この業務に従事した間に受けた外部被ばくによる実効線量の算定値に最も近いものは、(1)~(5)のうちどれか。
ただし、防護衣の中は均等被ばくとみなし、外部被ばくによる実効線量(HEE)は、次式により算出するものとする。
HEE=0.08Ha+0.44Hb+0.45Hc+0.03Hm
Ha:頭・頸部における線量当量
Hb:胸・上腕部における線量当量
Hc:腹・大腿部における線量当量
Hm:「頭・頸部」「胸・上腕部」「腹・大腿部」のうち被ばくが最大となる部位における線量当量
(1)0.2mSv
(2)0.4mSv
(3)0.6mSv
(4)0.8mSv
(5)1.0mSv
答え(2)
この問題は、測定結果から「外部被ばくによる実効線量」を算定するものです。
もし全身に均等に被ばくする場合は、基本装着部位(男性は胸部、女性は腹部)に個人被ばく線量計を装着し、そこで測定した1cm線量当量を、外部被ばくによる実効線量とします。
しかし、今回は各部位で測定値が異なる不均等被ばくです。
このような場合の外部被ばくによる実効線量は次の式で算出できます。
HEE=0.08Ha+0.44Hb+0.45Hc+0.03Hm
HEE:外部被ばくによる実効線量
Ha:頭・頸部における1cm線量当量
Hb:胸・上腕部における1cm線量当量
Hc:腹・大腿部における1cm線量当量
Hm:「頭・頸部」「胸・上腕部」「腹・大腿部」のうち外部被ばくによる実効線量が最大となるおそれのある部位における1cm線量当量
臓器・組織ごとに放射線リスクが異なる為、上記の式では、各部位で異なる係数を掛けることになっています。
また、各部位の1cm線量当量は、それぞれの部位に装着した個人被ばく線量計の測定値を用いることが原則ですが、測定されていない場合は、他の部位のうち最大の1cm線量当量を該当部位の1cm線量当量とします。
または、線量不明の部位にもっとも近い部位に装着された線量計による1cm線量当量と同程度であることが明らかな場合には、その近接部位の1cm線量当量を用います。
問題文では「防護衣の中は均等被ばくとみなす」とありますので、胸部と腹・大腿部の測定値は同程度となり、Hcには0.3を用います。
それぞれの値を代入して、外部被ばくによる実効線量を求めます。
HEE = 0.08×1.2 + 0.44×0.3 + 0.45×0.3 + 0.03×1.2
= 0.399 ≒ 0.4mSv
問8 熱ルミネセンス線量計(TLD)と光刺激ルミネセンス線量計(OSLD)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)TLDでは素子としてフッ化リチウム、フッ化カルシウムなどが、OSLDでは炭素を添加した酸化アルミニウムなどが用いられている。
(2)TLD及びOSLDの素子は高感度であるが、TLDの素子は感度に若干のばらつきがある。
(3)線量読み取りのための発光は、TLDでは加熱により、OSLDでは緑色のレーザー光などの照射により行われる。
(4)OSLDでは線量の読み取りを繰り返し行うことができるが、TLDでは線量を読み取ると素子から情報が消失してしまうため、1回しか行うことができない。
(5)TLDでは加熱によるアニーリング処理を行うことにより素子を再使用することができるが、OSLDでは素子は1回しか使用することができない。
(5)は誤り。TLD、OSLDともに、アニーリング処理を行うことにより素子を再使用することができます。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問 9 あるサーベイメータを用いて60秒間エックス線を測定し、1,600cpsの計数率を得た。
この計数率の標準偏差(cps)に最も近い値は、次のうちどれか。
ただし、バックグラウンドは無視するものとする。
(1)0.7
(2)5
(3)27
(4)40
(5)310
答え(2)
標準偏差とは、値のバラツキを表す指標の一つです。
たとえば、サーベイメータの計数値が0秒から1秒の1秒間では1,604だとしても、1秒から2秒の1秒間では1,596というようにバラツキが見られます。
それでは、なるべくわかりやすい解法で標準偏差を計算していきます。
まず、計数率の標準偏差(cps)を求めるに当たり、60秒間の計数値を求めます。
60[s]×1,600[cps]=96,000[c]
60秒間の計数値は、96,000cだと分かりました。
次に、60秒間の計数値の標準偏差を求めます。
サーベイメータを用いて放射線を測定した場合の計数値の標準偏差は、次の式で求められます。
標準偏差=√計数値
ここに先ほど求めた60秒間の計数値96,000cを代入すると次のようになります。
標準偏差=√96,000 [c]
≒310[c]
60秒間の計数値の標準偏差は、310cであることが分かりました。
求めたいのは、1秒間あたりの計数値の標準偏差、つまり計数率の標準偏差(cps)なので、310cを60sで割ります。
310[c]/60[s]≒5[cps]
よって、この計数率の標準偏差(cps)は、(2)5が正解です。
ちなみに、ただし書きの「バックグラウンド」とは、自然に発生している放射線など本来測定したい放射線とは異なる放射線のことです。
問10 蛍光ガラス線量計に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)測定可能な線量の範囲は、熱ルミネセンス線量計より広く、0.1μSv~100Sv程度である。
(2)放射線により生成された蛍光中心に緑色のレーザー光を当て、発生する蛍光を測定することにより、線量を読み取る。
(3)発光量を一度読み取った後も蛍光中心は消滅しないので、再度読み取ることができる。
(4)素子は、光学的アニーリングを行うことにより、再度使用することができる。
(5)素子には、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどの蛍光物質が用いられており、湿度の影響を受けやすい。
(1)は誤り。測定可能な線量の範囲は、蛍光ガラス線量計が1μSv~10Sv程度、熱ルミネセンス線量計が0.1μSv~100Sv程度です。よって、熱ルミネセンス線量計の方が広いことがわかります。
(2)は誤り。蛍光ガラス線量計では、放射線照射により生成された蛍光中心に「紫外線」を当てて、発生するオレンジ色の蛍光の強さから線量を読み取ります。
(3)は正しい。
(4)は誤り。素子は、「高温下」でアニーリング(約400 ℃で加熱処理)を行うことにより、再度使用することができます。
(5)は誤り。蛍光ガラス線量計の素子には「銀活性リン酸塩ガラス」が用いられており、温・湿度の影響を受けにくいという特徴があります。
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