X線作業主任者の過去問の解説:生体(2018年10月)
ここでは、2018年(平成30年)10月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。
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問11 放射線感受性に関する次の記述のうち、ベルゴニー・トリボンドーの法則に従っていないものはどれか。
(1)皮膚の基底細胞層は、角質層より感受性が高い。
(2)小腸の腺窩(か)細胞(クリプト細胞)は、絨(じゅう)毛先端部の細胞より感受性が高い。
(3)リンパ球は、骨髄中だけでなく、末梢(しょう)血液中においても感受性が高い。
(4)骨組織は、一般に放射線感受性が低いが、小児では比較的高い。
(5)神経組織から成る脳の放射線感受性は、成人では低いが、胎児では高い時期がある。
答え(3)
(3)の記述内容は正しいのですが、ベルゴニー・トリボンドーの法則に従っていません。
ベルゴニー・トリボンドーの法則とは、細胞と放射線の影響の受けやすさを表した次の3つの法則です。
1.細胞分裂の頻度の高いものほど、放射線感受性が高い。
2.将来、長期にわたって細胞分裂を続けるものほど、放射線感受性が高い。
3.形態的に、機能的に未分化なものほど、放射線感受性が高い。
血球の一つであるリンパ球は、骨髄などの造血器官で作られます。
この法則に従えば、造血器官の中にある未分化なリンパ球は、放射線感受性が高くなります。
しかし、リンパ球は末梢血液中の成熟した状態でも、放射線感受性が高いことが分かっています。
問12 次のAからCの人体の組織・器官について、放射線感受性の高いものから順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
A 毛のう
B 小腸粘膜
C 甲状腺
(1)A,B,C
(2)A,C,B
(3)B,A,C
(4)B,C,A
(5)C,A,B
答え(3)
放射線感受性の高いものから「B小腸粘膜」「A毛のう」「C甲状腺」の順になります。
・小腸の表面は粘膜で覆われています。粘膜は皮膚と違ってしっとり濡れています。小腸粘膜のクリプト細胞は、高い放射線感受性を持ちます。
・毛のうは毛根を包み込む袋の部分で、被ばくにより毛のうが障害を受けると脱毛が生じます。
・甲状腺は、喉のところにあるホルモンを分泌する器官です。甲状腺ホルモンは体の成長を促したり、新陳代謝を促進しますが、放射線による甲状腺の異常で様々な症状が現れます。
問13 次のAからDの放射線による身体的影響について、その発症にしきい線量が存在するものの全ての組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 白血病
B 永久不妊
C 放射線宿酔
D 再生不良性貧血
(1)A,B,D
(2)A,C
(3)A,D
(4)B,C
(5)B,C,D
しきい線量が存在する症状は、すべて確定的影響になります。
つまり、しきい線量が存在しない症状(確率的影響)である、『発がん』と『遺伝的影響』以外のものを選択すればよいことになります。
ただし、発がんにも、血液のがんと言われる白血病や肺がん、胃がん、甲状腺がんなどの固形がんがあります。
なお、D 再生不良性貧血とは、通常の赤血球のみが減少する貧血と異なり、他のすべての血球が減少する造血器官の障害です。
問14 放射線の被ばくによる確率的影響及び確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)確率的影響では、被ばくした集団中の影響の発生確率は、被ばく線量の増加とともに増加する。
(2)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示される。
(3)遺伝的影響は、確率的影響に分類される。
(4)確定的影響の発生確率は、実効線量により評価される。
(5)しきい線量は、確定的影響には存在するが、確率的影響には存在しないと考えられている。
(4)は誤り。確定的影響の発生確率は、『等価線量』により評価されます。
また、確率的影響の発生確率は、実効線量により評価されます。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
問15 放射線被ばくによる白内障に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線により眼の角膜上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生する。
(2)白内障発生のしきい線量は、急性被ばくでも慢性被ばくでも変わらない。
(3)白内障は、早期影響に分類される。
(4)白内障の重篤度は、被ばく線量には依存しない。
(5)白内障の潜伏期間は、被ばく線量が多いほど短い傾向がある。
(1)は誤り。放射線により眼の『水晶体』上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生します。水晶体上皮細胞は、水晶体の前面側にありますが、放射線感受性が高いことで知られています。
(2)は誤り。白内障発生のしきい線量は、急性被ばくでは約5Gy、慢性被ばくでは約10Gyです。
(3)は誤り。白内障は、『晩発』影響に分類されます。被ばく後、約1か月以内に症状が現れるのが早期影響で、約1か月以上経ってから症状が現れるのが晩発影響です。(5)の解答も参照して下さい。
(4)は誤り。白内障は、確定的影響に分類されますので、その重篤度は被ばく線量に依存します。
(5)は正しい。白内障の潜伏期間は、半年から30年(平均2~3年)と幅が広く、被ばく線量が多いほど短くなります。
問16 生物学的効果比(RBE)に関する次のAからDの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A RBEは、基準放射線と問題にしている放射線について、各々の同一線量を被ばくしたときの集団の生存率の比である。
B RBEを求めるときの基準放射線としては、通常、アルファ線が用いられる。
C RBEの値は、同じ線質の放射線であっても、着目する生物学的効果、線量率などの条件によって異なる。
D RBEは放射線の線エネルギー付与(LET)の増加とともに増大し、100keV/μm付近で最大値を示すが、更にLETが大きくなるとRBEは減少していく。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは誤り。RBEは、基準放射線と問題にしている放射線について、同じ生物学的効果を与えるときの各々の『吸収線量』の比です。エックス線と中性子線など線質の異なる放射線の生物学的効果の違いを示す場合に用いられます。
Bは誤り。RBEを求めるときの基準放射線としては、通常、低LET放射線であるエックス線やガンマ線が用いられます。
Cは正しい。たとえば、基準放射線と問題にしている放射線がともにエックス線の場合も、線量率の大小によってRBEが異なります。
Dは正しい。LETとは、放射線の単位長さ当たりに与えるエネルギーを表す指標です。LETが100keV/μm付近の放射線が、DNAの近くを通ると必ずDNAが大きな障害を受けます。
問17 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)末梢(しょう)血液中のリンパ球以外の白血球は、被ばく直後一時的に増加することがある。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)人の末梢血液中の血球数の変化は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢血液中の血球のうち、被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。
(1)は正しい。骨髄や脾(ひ)臓などに貯蔵されていた白血球が、一時的に末梢血液中に絞り出されるのでこのようなことが起こります。
(2)は誤り。脊椎は背骨のことです。背骨の中を通る脊髄は神経組織でできていますので、造血機能はありません。
(3)は誤り。末梢血液中の血球数の変化は、0.25Gy程度から見られます。
(4)は誤り。被ばく後、寿命の短い血球から減少します。減少が速い順に、リンパ球→(リンパ球以外の)白血球→血小板→赤血球となります。
(5)は誤り。赤血球は酸素を運ぶ役割を持つので、その減少は貧血を招きます。血小板は止血作用として働きますので、その減少で出血傾向(血が出やすく、止まりにくい傾向)が見られます。白血球は免疫作用として働きますので、その減少で感染に対する抵抗力を弱めることになります。
問18 放射線の生物学的効果に関する次のAからDの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 組織加重係数は、各組織・臓器の確率的影響に対する相対的な放射線感受性を表す係数であり、どの組織・臓器においても1より小さい。
B 半致死線量は、被ばくした集団中の全個体が一定期間内に死亡する最小線量の50%に相当する線量である。
C OER(酸素増感比)とは、細胞内に酸素が存在しない状態と存在する状態とを比較し、同じ生物学的効果を与える線量の比で、酸素効果の大きさを表すものである。
D 倍加線量は、放射線による遺伝的影響を推定するための指標であり、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりやすい。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは正しい。組織加重係数は、全身を1として各組織・臓器に割り振られています。その値は、赤色骨髄などが0.12、生殖腺が0.08、甲状腺などが0.04、脳などが0.01となっています(ICRP2007年勧告)。
Bは誤り。半致死線量は、被ばくした集団中の『半数』の個体が一定期間内に死亡する線量です。半致死線量は、ヒトでは約4Gy、マウスでは約6Gyとされています。
Cは正しい。エックス線などの生物への影響は、酸素があると著しく大きくなります。これが酸素効果で、その大きさはOER(酸素増感比)で表されます。
Dは誤り。倍加線量の値が大きいほど、突然変異を2倍にするためにたくさんの線量が必要になるので、遺伝的影響は起こりにくいことになります。
問19 放射線による生物学的効果に関する次の現象のうち、放射線の間接作用によって説明することができないものはどれか。
(1)生体中に存在する酸素の分圧が高くなると放射線の生物学的効果は増大する。
(2)温度が低下すると放射線の生物学的効果は減少する。
(3)生体中にシステイン、システアミンなどのSH基をもつ化合物が存在すると放射線の生物学的効果を軽減させる。
(4)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、不活性化される酵素の分子数は酵素の濃度に比例する。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子数のうち、不活性化される分子の占める割合は増大する。
(1)は正しい。エックス線(低LET放射線)などの生物への影響は、酸素があると著しく大きくなります。これを酸素効果といいます。
(2)は正しい。温度が低下するとラジカルの拡散速度が鈍くなり、標的となる分子が影響を受けにくくなります。これを温度効果といいます。
(3)は正しい。SH基(硫黄と水素の化合物)を有する化合物は、ラジカルと結合して放射線効果を軽減してくれます。これを防護効果といいます。
(4)は間接作用によって説明することができない。不活性化分子数が酵素の濃度に比例するのは、直接作用で説明できます。間接作用では、不活性化分子数は一定です。
(5)は正しい。間接作用では、酵素の濃度が減少すると、不活性化割合は増大します。
問20 胎内被ばくに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)着床前期の被ばくでは、胚(はい)の死亡が起こることがあるが、被ばくしても生き残り、発育を続けて出生した子供には、被ばくによる影響はみられない。
(2)器官形成期の被ばくでは、奇形が発生することがある。
(3)胎児期の被ばくでは、出生後、精神発達遅滞がみられることがある。
(4)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(5)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる精神発達遅滞は、確率的影響に分類される。
(5)は誤り。胎内被ばくによる精神発達遅滞などの障害は、しきい線量が存在するため、『確定的』影響に分類されます。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
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