X線作業主任者の過去問の解説:管理(2017年10月)
ここでは、2017年(平成29年)10月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
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◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2017年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2017年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2017年10月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2017年10月)
問1 下図のように、エックス線装置を用いて鋼板の透過写真撮影を行うとき、エックス線管の焦点から4mの距離のP点における写真撮影中の1cm線量当量率は0.3mSv/hである。
露出時間が1枚につき120秒の写真を週300枚撮影するとき、エックス線管の焦点とP点を通る直線上で焦点からP点の方向にあるQ点が管理区域の境界線の外側にあるようにしたい。
焦点からQ点までの距離として、最も短いものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、3か月は13週とする。
(1)12m
(2)17m
(3)22m
(4)27m
(5)32m
答え(3)
この問題は、図のQ点が管理区域の境界線の外側にあるとき、エックス線管の焦点からQ点までの最短距離を求めるものです。
なお、管理区域とは、3か月あたり1.3mSvを超えるおそれのある区域です。
まず、3か月当たりの全撮影時間を計算します。
全撮影時間=1枚当たりの露出時間×週の撮影枚数×3か月の週数
=120/3,600[h/枚]×300[枚/週]×13[週/3か月]
=130[h/3か月]
次に、P点における3か月当たりの線量当量を計算します。
線量当量=線量当量率×全撮影時間
=0.3[mSv/h]×130[h/3か月]
=39[mSv/3か月]
それでは、逆2乗則を使って、エックス線管焦点から管理区域の境界までの距離aを求めましょう。
逆2乗則は、強度が距離の2乗に反比例して減少する法則なので、次のような計算式で表されます。
強度A/強度B=距離b2/距離a2
1.3[mSv/3か月]/39[mSv/3か月]=42[m]/a2[m]
a2[m]=39[mSv/3か月]×42[m]/1.3[mSv/3か月]
a2[m]=39[mSv/3か月]×16[m]/1.3[mSv/3か月]
a2[m]=480[m]
a[m]≒21.9[m]
したがって、Q点が管理区域の境界線の外側にあり、焦点からQ点までの距離として、最も短いものは(3)22mです。
問2 あるエックス線装置のエックス線管の焦点から1m離れた点における1cm線量当量率は12mSv/minであった。
このエックス線装置を用い、厚さ8mmの鋼板及び厚さ40mmのアルミニウム板にそれぞれ別々に照射したところ、透過したエックス線の1cm線量当量率はいずれも3mSv/minであった。
厚さ10mmの鋼板と厚さ30mmのアルミニウム板を重ね合わせ40mmとした板に照射した場合、透過後の1cm線量当量率の値として、最も近いものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、エックス線は細い線束とし、測定点はいずれもエックス線管の焦点から1m離れた点とする。
また、鋼板及びアルミニウム板を透過した後の実効エネルギーは、透過前と変わらないものとし、散乱線による影響は無いものとする。
(1)0.1mSv/min
(2)0.4mSv/min
(3)0.8mSv/min
(4)1.2mSv/min
(5)1.6mSv/min
答え(3)
この問題は、鋼板とアルミニウム板という2種類の異なる板を重ね合わせ、そこにエックス線を照射したときの透過後の線量率を求めるものです。
まず、次の減弱の式を使って、鋼板とアルミニウム板の半価層hを計算します。
I=I0(1/2)x/h
先に、鋼板の半価層hです。
3[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)8[mm]/h[mm]
3[mSv/min]/12[mSv/min]=(1/2)8[mm]/h[mm]
1/4=(1/2)8[mm]/h[mm]
(1/2)2=(1/2)8[mm]/h[mm]
指数の部分を抜き出して計算します。
2=8[mm]/h[mm]
h[mm]=4[mm]…鋼板
次に、アルミニウム板の半価層hです。
3[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)40[mm]/h[mm]
3[mSv/min]/12[mSv/min]=(1/2)40[mm]/h[mm]
1/4=(1/2)40[mm]/h[mm]
(1/2)2=(1/2)40[mm]/h[mm]
指数の部分を抜き出して計算します。
2=40[mm]/h[mm]
h[mm]=20[mm]…アルミニウム板
2種類の異なる板を重ね合わせたときの減弱の式は次のようになります。
I=I0(1/2)x/h×(1/2)x/h
先の「(1/2)x/h」が鋼板の減弱を、後の「(1/2)x/h」がアルミニウム板の減弱を意味します。
それでは問題文の板の厚さの値と先ほど求めた半価層の値を代入して計算していきます。
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)10[mm]/4[mm]×(1/2)30[mm]/20[mm]
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)5[mm]/2[mm]×(1/2)3[mm]/2[mm]
このような形になると、指数の部分は足し算になります。
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)5[mm]/2[mm]+3[mm]/2[mm]
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)8[mm]/2[mm]
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)4
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/2)×(1/2)×(1/2)×(1/2)
I[mSv/min]=12[mSv/min](1/16)
I[mSv/min]=0.75[mSv/min]
したがって、透過後の1cm線量当量率の値として、最も近いものは(3)0.8mSv/minとなります。
問3 エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線は、荷電粒子の流れである。
(2)エックス線は、直接電離放射線である。
(3)エックス線は、波長が可視光線より短い電磁波である。
(4)エックス線の光子は、電子と同じ質量をもつ。
(5)エックス線は、磁場の影響を受ける。
(1)は誤り。エックス線は、高エネルギーの電磁波です。荷電粒子ではありません。
(2)は誤り。エックス線は、電荷を持たない間接電離放射線です。
(3)は正しい。エックス線の波長は、可視光線や紫外線より短いです。
(4)は誤り。エックス線を含む電磁波は、質量を持っていません。太陽の光も電磁波ですが、日光を浴びたからといって体が重くなることはありませんね。ちなみに電子の質量は、9.10938356×10-31kgです。
(5)は誤り。エックス線は、磁場や電場の影響を受けません。
問4 エックス線と物質の相互作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)コンプトン効果により散乱されるエックス線の中には、入射エックス線より波長の短いものがある。
(2)コンプトン効果は、必ず特性エックス線の発生を伴う。
(3)光電効果が生じる確率は、入射エックス線のエネルギーが増大すると、コンプトン効果に比べて急激に低下する。
(4)光電効果により光子エネルギーが原子に吸収されて光子は消滅し、このとき入射エックス線に等しい運動エネルギーを持つ光電子が放出される。
(5)電子対生成は、入射エックス線のエネルギーが、電子1個の静止質量に相当するエネルギー以上であるときに生じる。
(1)は誤り。コンプトン効果による散乱エックス線は、入射エックス線よりエネルギーが小さくなるため波長が長くなります。
(2)は誤り。コンプトン効果では、特性エックス線は発生しません。なお、光電効果では、2次的に特性エックス線の発生を伴います。
(3)は正しい。
(4)は誤り。光電効果により放出される光電子の運動エネルギーは、入射エックス線のエネルギーから電離するためのエネルギーを差し引いたものとなります。したがって、光電子の運動エネルギーは、入射エックス線のエネルギーより小さくなります。
(5)は誤り。「電子1個」ではありません。電子対生成は、入射エックス線のエネルギーが、電子2個の静止質量に相当するエネルギー(1.02MeV)以上であるときに生じます。
問5 工業用エックス線装置のエックス線管及びエックス線の発生に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線管の内部には、効率的にエックス線を発生させるためにアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。
(2)陽極のターゲットにタングステンが多く用いられる主な理由は、熱伝導率が高く、加工しやすいことである。
(3)陰極のフィラメント端子間の電圧は、フィラメント加熱用の降圧変圧器を用いて10~20V程度にされている。
(4)陽極のターゲット上のエックス線が発生する部分を実効焦点といい、これをエックス線束の利用方向から見たものを実焦点という。
(5)陽極のターゲットに衝突する電子の運動エネルギーがエックス線に変換する効率は、管電圧に比例し、ターゲット元素の原子番号に反比例する。
(1)は誤り。エックス線管の内部は、空気がほとんどない高度の真空状態(約10-7mmHg)としています。ちなみに、1気圧は760mmHgです。
(2)は誤り。陽極のターゲットにタングステンが多く用いられる主な理由は、高融点だから(固体から液体になるときの温度が高いから)です。なお、タングステンの融点は約3,400℃で、金属元素の中でもっとも高融点です。
(3)は正しい。
(4)は誤り。「実焦点」と「実効焦点」の説明が逆です。
(5)は誤り。変換効率(発生効率)は、管電圧とターゲット元素の原子番号の積に比例します。
問6 単一エネルギーの細いエックス線束が物体を透過するときの減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)半価層の値は、エックス線の線量率が高くなるほど大きくなる。
(2)エネルギー範囲が10keVから1MeV程度までのエックス線に対する鉄の半価層の値は、エックス線のエネルギーが高くなるほど小さくなる。
(3)半価層h(cm)は、減弱係数μ(cm-1)に比例する。
(4)硬エックス線の場合は、軟エックス線の場合より、半価層の値が小さい。
(5)1/10価層H(cm)と半価層h(cm)との間には、H=(loge10/loge2)hの関係がある。
(1)は誤り。半価層の値は、線量率の影響を受けません。
(2)は誤り。エネルギー範囲が10keVから1MeV程度までのエックス線は、光電効果やコンプトン効果が起こりやすいエネルギー範囲です。半価層の値は、エックス線のエネルギーが高くなるほど大きくなります。
(3)は誤り。半価層h(cm)=loge2/減弱係数μ(cm-1)が成り立ちますので、「比例」ではなく「反比例」です。
(4)は誤り。硬エックス線(エネルギーの高いエックス線)の場合は、軟エックス線(エネルギーの低いエックス線)の場合より、半価層の値が大きくなります。
(5)は正しい。
問7 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な最小値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することをオージェ効果という。
(5)K系列の特性エックス線は、管電圧を上げると強度が増大するが、その波長は変わらない。
(1)は誤り。特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると短くなります。
(2)は誤り。特性エックス線は、線スペクトルを示します。
(3)は誤り。管電圧が、K励起電圧を下回るときでも、他の系列の特性エックス線が発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果では、特性エックス線を発生させる代わりに外殻の電子を飛び出させます。
(5)は正しい。特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号で決まっています。
問8 透過試験に用いる工業用の分離形エックス線装置に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。
「工業用の分離形エックス線装置は、エックス線管、エックス線管冷却器、[ A ]、[ B ]、[ C ]及び低電圧ケーブルで構成される装置である。」
(1)A=エックス線制御器 B=管電流調整器 C=高電圧ケーブル
(2)A=エックス線制御器 B=管電圧調整器 C=管電流調整器
(3)A=管電圧調整器 B=管電流調整器 C=高電圧ケーブル
(4)A=高電圧発生器 B=管電圧調整器 C=管電流調整器
(5)A=高電圧発生器 B=エックス線制御器 C=高電圧ケーブル
分離形エックス線装置では、高電圧発生器とエックス線管を高電圧ケーブルで接続します。
問9 単一エネルギーで太い線束のエックス線が物体を透過するときの減弱式における再生係数(ビルドアップ係数)Bを表す式として、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、IP、ISは、次のエックス線の強度を表すものとする。
IP:物体を直進して透過し、測定点に到達した透過線の強度
IS:物体により散乱されて、測定点に到達した散乱線の強度
(1)B=1+IS/IP
(2)B=1+IP/IS
(3)B=1-IS/IP
(4)B=IP/IS-1
(5)B=IP/IS
答え(1)
再生係数Bは、測定点に到達した散乱線の強度の割合を表すものです。
したがって、次のように計算することができます。
再生係数B=(透過線強度IP+散乱線強度IS)/透過線強度IP
=1+散乱線強度IS/透過線強度IP
問10 ろ過板に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「ろ過板は、照射口に取り付けて、透過試験に役立たない[ A ]エックス線(波長の[ B ]エックス線)を取り除き、無用な散乱線を減少させるために使用する。
しかし、[ C ]などで[ A ]エックス線そのものを利用する場合には、ろ過板は使用しない。」
(1)A=硬 B=長い C=エックス線回折装置
(2)A=硬 B=短い C=蛍光エックス線分析装置
(3)A=軟 B=長い C=蛍光エックス線分析装置
(4)A=軟 B=長い C=エックス線CT装置
(5)A=軟 B=短い C=エックス線回折装置
一般的に10keV以下のエックス線を軟エックス線、100keV以上のエックス線を硬エックス線と言ったりします。
軟エックス線は、エネルギーが小さく波長の長いエックス線です。
一方で、硬エックス線は、エネルギーが大きく波長の短いエックス線です。
ろ過板は、厚さ1mm程度の金属板ですが、軟エックス線はこれを通り抜けることができません。
蛍光エックス線分析装置では、軟エックス線を利用しますのでろ過板を使用しません。
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