X線作業主任者の過去問の解説:管理(2017年4月)
ここでは、2017年(平成29年)4月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2017年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2017年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2017年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2017年4月)
問1 エックス線管及びエックス線の発生に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)エックス線管の内部は、効率的にエックス線を発生させるため、高度の真空状態としている。
(2)陽極のターゲットには、融点の高いタングステン、モリブデンなどが用いられる。
(3)電子が陽極のターゲットに衝突し、エックス線が発生する部分を実焦点といい、これをエックス線束の利用方向から見たものを実効焦点という。
(4)陽極のターゲットに衝突した電子の運動エネルギーの一部はエックス線として放射されるが、その発生効率は1~3%程度で、大部分は熱に変換される。
(5)エックス線管の管電流は、陰極から陽極に向かって流れる。
(5)は誤り。エックス線管の管電流は、陽極(+)から陰極(-)に向かって流れます。「電流」は+から-へ流れると考えますが、実際の「電子」は-から+へ流れます。「電流」と「電子」の流れる方向は矛盾するので注意しましょう。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問2 エックス線管から発生する連続エックス線の全強度Iを示す式として、実験的に求められているものは、次のうちどれか。
ただし、V:管電圧
i:管電流
Z:ターゲット元素の原子番号
k:比例定数
とする。
(1)I = kiV2Z
(2)I = kiVZ2
(3)I = ki2VZ
(4)I = kiVZ
(5)I = ki2V/Z
エックス線管から発生する連続エックス線の全強度Iは、管電流iとターゲット元素の原子番号Zに比例し、管電圧Vの2乗に比例します。
たとえば、エックス線装置の管電圧を大きくすれば、発生するエックス線の量は急激に増加することになります。
問3 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な限界値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することをオージェ効果という。
(5)K系列の特性エックス線は、管電圧を上げると強度が増大するが、その波長は変わらない。
(1)は誤り。特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると短くなります。
(2)は誤り。特性エックス線は、線スペクトルを示します。なお、制動エックス線は、連続スペクトルを示します。
(3)は誤り。管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な限界値であるK励起電圧を下回るときでも、他の系列(たとえばL系列など)の特性エックス線が発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果では、特性エックス線を発生させる代わりに外殻の電子を飛び出させます。
(5)は正しい。特性エックス線の波長は、元素固有のものですので、管電圧や管電流で変わるものではありません。
問4 次のAからDまでのエックス線と物質との相互作用について、その作用によって入射エックス線が消滅してしまうものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A レイリー散乱
B 光電効果
C コンプトン効果
D 電子対生成
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
Aは消滅しない。レイリー散乱は、エックス線が原子の軌道電子と衝突して運動の向きを変える現象です。
B消滅する。光電効果は、エックス線が軌道電子にエネルギーを与え、電子が原子の外に飛び出し、エックス線は消滅する現象です。
Cは消滅しない。コンプトン効果は、エックス線が軌道電子と衝突し、電子が原子の外に飛び出し、エックス線は運動の向きを変える現象です。
Dは消滅する。電子対生成は、高エネルギーのエックス線が原子核の近傍を通過するとき電子と陽電子の対を生成し、エックス線は消滅する現象です。
問5 単一エネルギーの細いエックス線束が物体を透過するときの減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)半価層の値は、エックス線の線量率が高くなると大きくなる。
(2)半価層の値は、1MeV程度以下のエネルギー範囲では、エックス線のエネルギーが高くなるほど小さくなる。
(3)半価層h(cm)と減弱係数μ(cm-1)との間には、μh=log102の関係がある。
(4)半価層の値は、硬エックス線の場合の方が軟エックス線の場合より大きい。
(5)半価層の5倍に相当する厚さが1/10価層である。
(1)は誤り。半価層とは、物体にエックス線を照射したときに、物体を透過するエックス線の量が半分になるときの厚さのことです。半価層の値は、エックス線のエネルギーと物体の種類に依存しますが、線量率(時間当たりのエックス線の量)には依存しません。
(2)は誤り。エックス線はそのエネルギーが高くなると、物体を透過しやすくなるため、より半価層の値を大きくする必要があります。したがって、半価層の値は、エックス線のエネルギーが高くなるほど大きくなります。
(3)は誤り。半価層h(cm)と減弱係数μ(cm-1)との間には、μh=loge2の関係があります。ちなみに、log(ログ)は対数を表す記号です。
(4)は正しい。硬エックス線(エネルギーの高いエックス線)は、物体を透過しやすい性質があり、より半価層の値を大きくする必要があります。したがって、半価層の値は、軟エックス線(エネルギーの低いエックス線)の場合より大きくなります。
(5)は誤り。半価層の約3.3倍に相当する厚さが1/10価層になります。
問6 エックス線を利用した各種試験装置に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)蛍光エックス線分析装置は、物質を透過したエックス線を蛍光体が塗布された板の上に当てたときにできる蛍光像を観察することによって、物質の欠陥の程度などを識別する装置である。
(2)エックス線マイクロアナライザーは、細く絞った電子線束を試料の微小部分に照射し、発生する特性エックス線を分光することによって、微小部分の元素を分析する装置である。
(3)エックス線回折装置は、結晶質の物質にエックス線を照射すると特有の回折像が得られることを利用して、物質の結晶構造を解析し、物質の性質を調べる装置である。
(4)エックス線応力測定装置は、応力による結晶の面間隔の変化をエックス線の回折を利用して調べることにより、物質内の残留応力の大きさを判定する装置である。
(5)エックス線透過試験装置は、被検査物体を透過したエックス線による画像を観察する装置で、画像の検出にはフィルムなどが用いられる。
(1)は誤り。蛍光エックス線分析装置は、白色(連続)エックス線を試料に照射して、発生する蛍光エックス線の性質を調べ、試料の定性、定量分析を行う装置です。
定性分析とは、どのような元素が入っているか見分けることで、定量分析とは、その元素が全体の何%を占めているかを見分けることです。
(2)(3)(4)(5)は正しい。
問7 ろ過板に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「ろ過板は、照射口に取り付けて、透過試験に役立たない[ A ]エックス線(波長の[ B ]エックス線)を取り除き、無用な散乱線を減少させるために使用する。
しかし、[ C ]などで[ A ]エックス線そのものを利用する場合には、ろ過板は使用しない。」
(1)A=硬 B=長い C=エックス線回折装置
(2)A=硬 B=短い C=蛍光エックス線分析装置
(3)A=軟 B=長い C=蛍光エックス線分析装置
(4)A=軟 B=長い C=エックス線CT装置
(5)A=軟 B=短い C=エックス線回折装置
透過試験装置は数100kVの管電圧で用いますが、そのエックス線束には透過試験で不要な軟エックス線(エネルギーの低いエックス線)も含まれています。
軟エックス線は、特に皮膚に吸収されやすく、被ばく量増加の原因にもなります。
そこで軟エックス線を取り除くために、ろ過板を使用します。
しかし、蛍光エックス線分析装置は数10kVの管電圧で用いますので軟エックス線を利用します。
この場合は、ろ過板を使用しません。
問8 管理区域設定のための外部放射線の測定に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)測定器は、方向依存性が大きく、測定可能な下限線量が小さなものを用いる。
(2)放射線測定器は、国家標準とのトレーサビリティが明確になっている基準測定器又は数量が証明されている線源を用いて測定実施日の1年以内に校正されたものを用いる。
(3)測定点は、壁などの構造物によって区切られた領域の中央部と境界の床面上10cmの高さの数箇所の位置とする。
(4)あらかじめ計算により求めた1cm線量当量又は1cm線量当量率の高い箇所から低い箇所へ順に測定していく。
(5)あらかじめバックグラウンド値を調査しておき、これを測定値に加算して補正した値を測定結果とする。
(1)は誤り。測定器は、方向依存性が小さいもので、測定しようとする線量を読み取れる感度をもったものを用います。
(2)は正しい。校正は『1年』以内です。これもよく問われます。
(3)は誤り。測定点は、壁等の構造物によって区切られた境界の近辺の箇所を含むこととされています。また、測定点の高さは、作業床面上約1 mの位置とすることとされています。
(4)は誤り。測定の際は、線量の低い箇所から高い箇所へ順に測定していきます。
(5)は誤り。バックグラウンド値は、自然の放射線など本来測定したい線量以外の線量です。測定値からバックグラウンド値を差し引いた値を測定結果とします。
問9 あるエネルギーのエックス線に対する鉄の質量減弱係数が0.5cm2/gであるとき、このエックス線に対する鉄の1/10価層に最も近い厚さは次のうちどれか。
ただし、鉄の密度は7.9g/cm3とし、loge2=0.69、loge5=1.61とする。
(1)3mm
(2)4mm
(3)5mm
(4)6mm
(5)7mm
答え(4)
問題文にはlog(対数)がありますが、今回はlog(対数)を使わない計算方法で見ていきましょう。
この問題で必要な公式は、次のとおりです。
①減弱係数[cm-1]=質量減弱係数[cm2/g]×密度[g/cm3]
②半価層[cm]=0.69/減弱係数[cm-1]
③1/10価層[cm]=半価層[cm]×3.3
まず①の公式を使って鉄の減弱係数を求めます。
減弱係数[cm-1]=0.5[cm2/g]×7.9[g/cm3]
減弱係数[cm-1]=3.95[cm-1]
続いて、②の公式を使って鉄の半価層を求めます。
半価層[cm]=0.69/3.95[cm-1]
半価層[cm]≒0.175[cm]
最後に、③の公式を使って鉄の1/10価層を求めます。
1/10価層[cm]=0.175[cm]×3.3
1/10価層[cm]=0.5775[cm]
これを選択肢と同じmm単位に直します。
0.5775[cm]×10[mm/cm]=5.775[mm]
したがって、1/10価層に最も近い厚さは(4)6mmが正解です。
問10 図のように、検査鋼板に垂直に細い線束のエックス線を照射し、エックス線管の焦点から5mの位置にある測定点Pで、遮へい板を透過したエックス線の線量当量率を測定した。
遮へい板として鉄を用いるときの測定点Pにおける線量当量率を、厚さ2mmの鉛の遮へい板を用いたときの線量当量率以下にするために必要な鉄板の厚さとして、最小のものは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、鉄及び鉛の質量数、密度(g/cm3)及びこのエックス線に対する質量減弱係数(cm2/g)は、次のとおりとする。
(1)2.5mm
(2)6.7mm
(3)25mm
(4)67mm
(5)250mm
答え(3)
この問題では質量数(原子核を構成する陽子と中性子を合わせた数)の値は用いませんので気にしなくてオッケーです。
この問題で必要な公式は、次のとおりです。
①減弱係数[cm-1]=質量減弱係数[cm2/g]×密度[g/cm3]
②半価層[cm]=0.69/減弱係数[cm-1]
③I=I0(1/2)x/h…減弱の式
まず①の公式を使って鉄と鉛の減弱係数を求めます。
減弱係数[cm-1]=0.1[cm2/g]×8[g/cm3]
減弱係数[cm-1]=0.8[cm-1]…鉄
減弱係数[cm-1]=0.9[cm2/g]×11[g/cm3]
減弱係数[cm-1]=9.9[cm-1]…鉛
続いて②の公式を使って鉄と鉛の半価層を求めます。また、後の計算を考えて単位をmmに直しておきます。
半価層[cm]=0.69/0.8[cm-1]
半価層[cm]≒0.86[cm]
0.86[cm]×10[mm/cm]=8.6[mm]…鉄
半価層[cm]=0.69/9.9[cm-1]
半価層[cm]≒0.07[cm]
0.07[cm]×10[mm/cm]=0.7[mm]…鉛
最後に③の公式に鉄と鉛の半価層と問題文で与えられている「厚さ2mmの鉛の遮へい板」を代入します。
I=I0(1/2)x[mm]/8.6[mm]…鉄
I=I0(1/2)2[mm]/0.7[mm]…鉛
それぞれの式は指数の部分以外が同じです。ですから指数の部分を抜き出して計算することができます。
x[mm]/8.6[mm]=2[mm]/0.7[mm]
x[mm]≒24.6[mm]
したがって、鉄板の厚さとして、最小のものは(3)25mmが正解です。
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